B&Rはオンラインイベント「B&R JAPAN Digital Innovation Day 2021」を開催。本稿ではその中で「イノベーション」をテーマに行われたB&R(日本法人)代表取締役の小野雅史氏と花王 技術開発センター 先端技術グループ 部長の小林英男氏による対談を紹介する。
B&R(日本法人)は2021年9月14日、オンラインイベント「B&R JAPAN Digital Innovation Day 2021」を開催。「製造現場に柔軟性を生み出すアダプティブマシン」をテーマとし、製造現場の柔軟な自動化を推進する技術について紹介した。本稿ではその中で「イノベーション」をテーマに行われたB&R(日本法人)代表取締役の小野雅史氏と花王 技術開発センター 先端技術グループ 部長の小林英男氏による対談を紹介する。
日本の多くの企業が現在頭を悩ませているのが「イノベーション」をどう生み出すかということだ。イノベーションとは「技術革新」の範囲で捉えられることが多いが、本来は「社会・経済に新しい価値をもたらすもの」で、その手段は「新製品開発」だけではなく、「新生産方法」「新マーケット」「組織の改革」など、さまざまなものが考えられる。これらの実践により企業にとっては非連続な成長が実現できるとされているが、多くの日本企業にとっては革新を伴う取り組みは苦手だとされてきた。
こうした中で積極的にイノベーションへの取り組みを進めているのが花王である。花王の小林氏は「先代社長(澤田道隆氏)の時代から『やらないリスクよりやるリスクを取る。やらないことが最大のリスクだ』ということが社内でも強く訴えられてきた。そのため花王の中ではイノベーションへのチャレンジが当たり前のように行われている」と語る。
その中で小林氏は現在、生産技術の研究開発を行う役割を担う。「花王の生産領域における充填と包装を中心に先端技術を活用して自動化を進める役割を担う。グループ内で大事にしている言葉として『作り方が価値の次元を変える』がある。ずっと以前の生産技術は効率的に安定した製造を行うことが中心だったかもしれないが、今は作り方によって製品の価値を引き上げることで企業としてのトップラインを引き上げる役割も担う。現在はデジタル技術と生産技術の融合を大きなテーマとしている。花王は現在その波にいち早く乗れており、新しい生産技術を構築して発信できるようにしていく」と小林氏は語る。
ただ一方で生産技術に関するイノベーションは“お見合い”の状況で、イノベーションが起こりにくい環境にあるとB&Rの小野氏は指摘する。「最終製品を作るメーカーに収める機械メーカーの話を聞くと『先進技術を取り入れた機械に取り組みたいけどエンドユーザーからの需要がない』と言う。一方で、エンドユーザーに話を聞くと『新しい取り組みをしたいけれど使える機械がない』と言う。こうしたお見合いが起きているケースが多い」(小野氏)。
これに対し小林氏は「誰が一歩を踏み出すのかは難しい問題だが、今起こっているコロナ禍のことを考えても『パンデミックはいずれ起きる』と言われ続けてきたにもかかわらず、いざ起きると全世界の社会システム全体が大きな影響を受ける状況が生まれた。メーカーとしても状況をコントロールできない中でさまざまな課題に迅速に対応することが求められた。マスク生産などを含め、こうしたスピード感や柔軟性、瞬発力が今後の多様化する市場に対しても大きなヒントになる」と語る。
さらに小林氏は「5年先、10年先にどう社会が変化するのかを考えることが重要だ。フィードフォワードの考え方が必要になる」とし、商流の変化が生産技術への変化を加速させていることを指摘する。「メーカーが卸業者や小売店を相手にビジネスをするだけでなく、顧客と直接つながるD2C(Direct to Consumer)へとシフトする中で、個人の感性に響く製品を提供していく必要性が高まってきている。大量生産大量消費を前提としてきたメーカーはどのように転換するのかが課題になる。その先読みの視点で生産技術についても考えていく必要がある」と小林氏は考えを述べている。
現在多くの企業では、これらの新たな取り組みが既存の業務に上乗せする形で加えられ、これらが現場に疲弊を招き、活動が進まないケースも散見されている。こうした状況に対し小林氏は「新しいことをやるには何かを捨てないといけない。限られたリソースの中で全てをやろうとしてもできない。切り替えていくことがリーダーシップだ。機械メーカーも同じで、従来あるものだけを重視して新しいものを取り込まないと変わることはできない」と「捨てる」重要性を訴えている。
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