連載「3D CADとJIS製図の基礎」では、“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”をテーマに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について解説する。第4回は、JIS製図における2D図面の“図形の表し方”のポイントを詳しく取り上げる。
今回は、JIS製図における2D図面の“図形の表し方”などについて解説します。これまでも「正面とは何か」ということをお話してきましたが、これは2D設計も3D設計も同じで、機能性を示すものとして重要です。
最近、設計技術者のスキルについて議論する機会がありました。筆者は、3D図面から2D部品図を十分に正しく描けるようになるには、1年間はかかると考えています。2D CADから3D CADに移行するにしても、製図能力は必要です。今回の記事では、設計初心者がより詳細な図形を表現できるようになることを目指します。
以下に、2D製図におけるポイントを示します。これらの内容を理解し、使いこなすことが重要です。
「JIS Z8315−1:1999 製図−投影法−第1部:通則 3.4 主投影図(principal view)」では、“対象物の主要な特徴を表す図形”のことを「主投影図」と表現しています。この主投影図とは「正面図」を意味します。
筆者は、新入社員研修で製図を指導していますが、必ず以下のような質問を投げ掛けます。
どの方向から見たものを自動車の正面図として描きますか?
この質問に対して、ほとんどの新入社員が「運転席を正面に見た、自動車の進む面を正面図とする」といいます。確かにこの向きは、自動車の個性を表しているので、コマーシャルフォトではこの方向から見た画像が多いのですが、図面の場合は個性ではなく、機能を表したいので、自動車の全長や高さ、ホイールベースが分かる側面のドア方向から見たものを正面図として使用します。自動車のカタログなどをお持ちの方は確認してみてください。
カタログにDIMENSIONS(四面図)のページがあると思います。正面図には、全長、全高、ホイールベースが記載されています。また、平面図には全幅、側面図にはトレッド前/後(トレッド:左右のタイヤ接地面の中心間の距離)が記載されていて、分かりやすい図面になっています。
参考として、筆者著書の教本を例に、ショベルカーの図面を描いてみました。自動車と同様に、図1に示した向きを正面図としています。
図面には“一義性”が求められます。そのため、明瞭性が必要です。このときポイントになるのが線(線種)の扱いです。製図にはさまざまな線を使用します。あまり確認する機会はないかもしれませんが、筆者が普段使用しているSOLIDWORKSの場合、「ドキュメントプロパティ」の中に線種に関する設定があります(図2)。
線種および線の優先順位(図3)については、「JIS B 0001:2019 機械製図 Technical drawings for mechanical engineering」に規定されています(JIS B0001の最新の改正は2019年です)。なお、CADで使用する線種についても「JIS Z 8321:2000 製図−表示の一般原則−CADに用いる線 Technical drawings−General principles of presentation−Preparation of lines by CAD system」の中に規定が記されています。
主投影図(正面図)を作成した場合、他の面の図形を描いていきますが、筆者は、線の優先順位が規定されている中で、第一優先の外形線を示す実線で表し、隠れ線である破線で表さなくてもよい投影面を選択するというのも、分かりやすい図面を作成するコツだと考えます。
図4を例に説明します。中央に示した正面図に対して、側面図として最適なのは、左側面図(左側の投影図)でしょうか? それとも右側面図(右側の投影図)でしょうか?
左側面図の場合、異なる径の軸や軸に平面取りが、隠れ線(破線)で表されていますが、右側面図は外形線(実線)で表されています。外形線で表されている方が、“平面取り加工とその加工がどの軸径の箇所にあるのか”という設計者の意図が伝わりやすくなるため、右側面図を側面図として選択すべきです(図5)。
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