パナソニックは「CVPR2021」において2件のAI技術が採択されたと発表。このうち1件と関わる住空間向けデータセット「Home Action Genome」は、同社が独自に構築したもので、住空間向けでは従来にない大規模なデータセットであるにもかかわらず無償で公開されている。その狙いについて、パナソニック テクノロジー本部の担当者に聞いた。
パナソニックは2021年5月28日、AI(人工知能)技術の世界最高峰の国際学会である「CVPR(Computer Vision and Pattern Recognition)2021」(開催期間:同年6月19〜25日)において2件のAI技術が採択されたと発表した。1件は住空間向けデータセット「Home Action Genome」の構築と、住空間における複雑な行動の認識性能を向上する協調学習技術で、もう1件は、大量の学習データの収集が困難な場合に用いられるデータ拡張を学習データの分布に応じて自動的に最適化する「AutoDO」である。
同社の“世界最高水準のAI技術”と言えば顔認証技術が知られている。2017年5月に、シンガポール国立大学との共同研究成果が、米国国立標準技術研究所(NIST)が公開しているベンチマークデータセットで「世界最高水準」の顔認証性能を実現したことを発表。その後、この顔認証技術を基に、法務省の入国管理局に採用された「顔認証ゲート」や、入退セキュリティシステム「KPAS」などの事業が展開されている。
今回のCVPR2021で発表するAI技術のうち、住空間向けデータセットのHome Action Genomeについては、ある意味“競争的”な面が強かった顔認証技術とは異なり、外部との“共創”による推進が大きな狙いとなっている。
Home Action Genomeは、住空間内における人の日常行動を模したシーンを、カメラや熱センサーなど数種類のセンサーを用いて撮影・計測したデータセットである。従来、住空間向けデータセットは規模が小さいものが主流だったが、Home Action Genomeはマルチモーダルかつより大規模になっている。AI研究者は、Home Action Genomeを機械学習の学習用データとして用いられるとともに、住宅内の人をサポートするAIの研究にも活用できる。
パナソニック テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター AIソリューション部 1課 主幹技師の小塚和紀氏は「Home Action Genomeは約3500シーン、トータル30時間ほどのデータを用意した。従来のデータセットの規模が数百シーンだったことを考えれば、かなり大規模になったと感じてもらえるのではないか」と語る。
そしてパナソニックは2020年10月、このHome Action Genomeを公開した。Webサイトで、利用目的などを登録すれば無償でダウンロードできるのは他の多くのAI用データセットと同じだ。
パナソニックがHome Action Genomeを公開した理由は、同社が掲げる「くらしアップデート」におけるAI活用を加速するためだ。Home Action Genomeは、「HomeX」をはじめ同社が開発を注力しているスマートホームに用いるAI技術の開発に有用だ。その一方で、AI技術の研究開発は分野によって大きな偏りがあり、進展が著しい画像認識や音声認識、自然言語処理に対して、Home Action Genomeで目指す行動認識はあまり進んでいない。パナソニック テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター AIソリューション部 1課 課長の築澤宗太郎氏は「Home Action Genomeというデータセットを課題として広く共有することで、住空間における行動認識のAI技術を外部と共創して進めたいと考えた」と説明する。
機械学習用データセットの公開でAIの研究開発を急速に進展させた例になるのが「ImageNet」だろう。Home Action Genomeは、このImageNetを構築したスタンフォード大学のチームと連携してオープン展開を進めており、CVPRや欧州のAI技術の国際学会「ECCV」でコンペティションも実施している。「1社でやれることには限界がある。Home Action Genomeを利用してもらい、そこで開発されたAI技術をどんどん取り込んで、くらしアップデートに反映していきたい」(小塚氏)という。
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