琵琶湖で実施した実証実験では、障害物として配置したブイやいかだ、浮桟橋を、接近前にレーダーで大まかな位置を把握して電子海図にマッピングした後、その海域に船を進めた時点で、3D-LiDARを用いてそれまで大まかに把握している障害物の距離を正確に測定して精度の高い位置情報を電子海図にプロットし、そこから入港のための航路を生成して自動で安全に航行し着桟に成功している。
これまで小型船舶の航行で障害となる小さな海上浮遊物に対して精度の高い位置情報を取得することができず、それが小型船舶の自動航行を困難なものにしていた。それが、3D-LiDARを採用したことで精度の高い位置情報がプロットできるようになり、そのおかげで小型のブイなどが浮かんでいる海域でも小型船舶の自動航行が可能になったという。現時点で自動離桟、障害物検知、自動航行、遠隔操作、自動着桟は静穏な海域における昼間航海という条件付きながらも、技術は確立している。
なお、自動着桟システムの開発を開始した当初、ヤンマーでは小型船舶で一般的な「一軸推進船」(1基のエンジンで1つのスクリューを回転させて1枚の舵と組み合わせて操船する船)を想定していたが、その後、ここまで説明したような「左右両舷に推進器を搭載」した推進システムに変更している(この方式を採用する小型船舶も市場に存在する)。この理由について、開発担当者は「一軸推進船は制御が難しくその解決に時間がかかる。まずは制御が容易な推進器を2基搭載した船をターゲットにして自動着桟システムの確実な実用化を優先した」と語る。
ただ、小型船でも比較的普及している船外機2基掛けへの適用はもちろんのこと、既存の一軸推進船でも使えるように、後付けのトローリング推進器やスラスターと組み合わせて現在流通している小型船舶にも搭載できる自動着桟システムを提供することは技術的に可能という。
ヤンマーでは、自動着桟システムの製品化を進めているが、現時点で複数の課題が上がっている。その中の1つが、波や風、雨、雪など悪天候への対応だ。悪天候はセンサーの検知方式によっては不利な状況だが、自動着桟システムでは悪天候のときほど使いたいという意見がユーザーから出ている。
現在、自動着桟システムでは「風速7メートル以下」という使用条件を設けている。これはヤンマーの実証実験が風速7メートルまでしか実施できていないという事情が関係している。その上で、ユーザー調査の結果によっては、ユーザーが求める(より状況の悪い)条件で使えるようにする必要があるという。また、自動着桟システムの推進装置として現在組み合わせているジョイスティック操船システムは風速10メートルまで使用できるので、自動着桟システムも性能としては同等の風速まで使用できる可能性があると述べている。
また、ユーザーからは、自動着桟という単機能製品だけでなく、「IoT漁業」「スマート養殖業」「海底地形の解明」など、国の「海における次世代モビリティに関する産学官協議会」が提唱するソリューションを提供できることを求められているという。そのため、ヤンマーでも自動着桟システムを組み込んだこれらのソリューションとしての製品化を目指している。なお、自動操船に関連した製品の提供にあたっては、さまざまな環境での実証実験を重ねつつ、自動操船に関するガイドラインの状況を確認しながら検討していく方針だ。
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