ちなみに、RT-Threadそのものはコミュニティーベースでの開発が行われているオープンソースプロジェクトであるが、そのコミュニティーの中核としてサポートを行っているのは上海睿赛徳电子科技有限公司である(図3)。位置付けとしては、Free RTOSにおけるReal Time Engineersと近いものかと思う。
さて、図1にもあるように、v4.0.0からいろいろな派生型、あるいは新機能が追加された。1つ目は、商用OSとしてのRT-Threadである。RT-Threadはオープンソースベースであり、Apache 2.0ライセンスで提供されるが、これとは別に商用向けに手を入れ、Apacheではないライセンスで提供したいというニーズに対応した形である。ちなみに上海睿赛徳电子科技有限公司自身も、RT-Threadとは別に独自の(つまりプロプライエタリな)ソフトウェアを提供している。
2つ目が「PersimUS OS(仮称)」だ。これに関しては、「Persimmon UI」と呼ばれるGUIツールキットが存在しており、これにRT-Threadが組み込まれる形で利用されている。スマートウォッチなどウェアラブル機器のGUI向けのツールキットであり、既にPersimmon UIを利用した製品は発売中だそうである。RT-ThreadはこのPersimmon UIの一部として稼働する形になっている。
3つ目の「MoM(Microkernel on MCU)」は、スマートメーター向けに開発されたもので、安全性の確保のためにシステムプロセスとアプリケーションプロセスを分離する目的で開発された。要するにRT-Threadのカーネルを、マイクロカーネルベースに入れ替えたもので、最初のターゲットはArmのCortex-M3/M4/M7となっているが、より新しいMCUや将来的にはマルチコアMCUにも対応可能とされている。
4つ目が、MoMとは別に開発された、ハイブリッドマイクロカーネルの「RT-Thread Smart」である。こちらはオーディオ/ビデオ向けやAI(人工知能)向けのフレームワークを追加したものになっている。ちなみに、ロードマップの中にもあるが「RT-Thread IoT」としてLPWA(低消費電力広域)ネットワークやBluetooth Meshのサポートがv4.2で追加されており、かなり充実している環境であることが分かる。
このロードマップとは別に、もう一つ存在しているのが「RT-Thread nano」である。これはRT-Threadの省メモリ版として2017年7月に発表されたもので、超軽量を売り物にしている。例えば、セマフォとメールボックスを使う2スレッド構成の場合、4KBのROMと1KBのSRAMがあれば動作する、としている。もちろんその分機能は最小限になっているが、ローエンドの32ビットMCUでも十分に動作するメモリフットプリントである。
中国におけるRT-ThreadのWebサイトはhttps://www.rt-thread.org(図4)、英語圏(というかワールドワイド)向けはhttps://www.rt-thread.io/(図5)となっており、前者では中国語で、後者では英語でそれぞれ情報やリソースが提供されている。
一応技術的な情報は両方でちゃんと同期がとれているもようだが、コミュニティーに関していえば特に互いに交流があるようには見えない(時々、相手側へのリンクが張られていることがあるようだ)。とはいっても、どちらのWebサイトでもコミュニティーはちゃんと機能しており、よほどのことがなければもう一方のWebサイトに行く必要性はないように感じる。
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