単なる下請けと組んでも「アップルらしいクルマ」は作れないのでは自動車業界の1週間を振り返る(1/2 ページ)

おはようございます。土曜日です。1週間、お疲れ様でした。今週は月曜から花粉が飛び始めたような気がします。憂鬱な季節のスタートです。

» 2021年02月06日 08時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 おはようございます。土曜日です。1週間、お疲れ様でした。今週は月曜から花粉が飛び始めたような気がします。憂鬱な季節のスタートです。効果を感じられる市販のアレルギー性鼻炎薬や目薬、花粉から目を守るメガネを見つけられたので現在はなんとか乗り切れていますが、花粉症デビュー当初は熱が出たり、鼻が詰まって口呼吸で息も絶え絶えだったりで散々でした。花粉症の症状が出るようになったのと同時期に、桃や豆乳など一部の食品でアレルギー反応が出るようになったのも恨めしいです。

 さて、今週もさまざまなニュースがありましたが、盛り上がっているのはやはりApple(アップル)の自動車参入でしょうか。韓国の起亜自動車とアップルの交渉が合意に近づいているという記事や、日本勢を含む複数の自動車メーカーに生産を打診しているという記事などを見かけました。最初のアップルカーはドライバーが不要な完全自動運転車であり、ロボタクシーや食品配達などを想定している可能性があるという実にあいまいな報道もありました。

 小欄は「週末向けの柔らかめな読み物」として書いておりますので、個人的にアップルの自動車参入(自社ブランドで自動車を持つこと?)の報道について思うところや気になるところを述べたいと思います。まずは、Uber(ウーバー)など先行プレイヤーの多い配車サービスや食品配達を、アップルが最後発で手掛けるつもりが本当にあるのだろうかという点です。

 アップルカーの生産は2024年と報じられています。報道の通りに完全自動運転車を用意するのであれば、Uber(ウーバー)にとって大きな比率を占めているドライバー関連のコストを大幅に抑えたところからスタートできるかもしれません。しかし、配車サービスを使う最終ユーザーやアップルに食品を運んでもらいたいユーザーの基盤を2024年から増やしていくとして、既にたくさんの人やモノを運んできた実績のあるプレイヤーたちが握るシェアを奪えるのでしょうか? 後発だからこそシェアを狙わないとして、配車サービスや食品配達の収益で数を追わずに高単価で稼ぐのは成立できるのでしょうか?

 また、アップルがカルフォルニア州で自動運転車の公道試験を縮小していることも気になります。新しいものは2019年の統計しか見つけられませんでしたが、アップルが2019年に自動運転車を走行させた距離はおよそ7500マイル(約1万2000km)で、2018年の約8万マイル(約12万8000km)の実績からは大きく減っています。一方、2018年から2019年にかけて、他の企業の自動運転車の走行距離は大幅に増えています。いくらシミュレーション技術が進化しても、今は公道テストを大幅に減らせる段階ではないはずです。カリフォルニア州以外に走行試験の場を移したのか、何か理由があって公道試験自体を減らしているのか。どちらにせよ10分の1に減るというのは特別な事情がありそうです。

アップルはクルマをどこまでオリジナルで設計するのか

 もう1つ気になるのは、アップルはクルマをどこまで設計するつもりなのだろう、というところです。自動運転技術の公道試験用に量販車を改造して走らせたり、数台のオリジナル車両を試作したりする技術があるのと、量産するための車両の設計開発を行うのは、全くの別物であるはずです。個人が所有するクルマはもちろん、ロボタクシーや物流用の自動運転車となればさらに高い耐久性が求められます。アップルお得意のユーザー体験のデザインも、自動車の使用条件からくる厳しい制約への理解がなくては成立しません。

 報道通りであれば、「アップルが全て設計し、自動車メーカーは生産するだけ」という水平分業になります。アップルの自動車や自動運転に関するニュースは数年前から出ていますが、同じくらい自動車の事業縮小や撤退のニュースも出てきました。この数年間で、量産に向けた設計開発まで自社で踏み込めるほどのノウハウはたまっているのでしょうか(そうは考えにくいです)。報道された量産の時期まで時間がない中で自社ブランドの自動車を発売するのであれば、自動車産業の伝統的な企業から教えてもらわない限り、アップル単独ではできないことがたくさんあるように見えます。最初の1車種目の設計はもちろん、安定した生産、品質向上、2車種目以降の設計などを続けるのであれば、一方的な力関係の提携や一朝一夕の協業では実現が難しいでしょう。

 個人的には、アップルはただクルマを作るのではなく「かなりいいクルマ」を作らなければならないと思っています。また、自動車メーカーのベース車両にちょっと手を加えただけでアップルは自社製品として出せるだろうか、とも思います。さすがに足回りや駆動系、パワートレインくらいは自動車メーカーのものを流用するでしょうけれども、車体が他のクルマと共通だったり、ボディーパネルを変えたりする程度で、アップルが望むデザインになるでしょうか。

マツダの工場見学で撮影した写真です。デザイナーの狙いを再現するため、金型の滑らかさにまでこだわります。デザインでいえば、アップルが組むのはマツダがいいんじゃないかと思います(クリックして拡大)
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.