ただ、マルチ生体認証技術を運用する中で見えてきた課題もあった。
1つはマスク着用時に顔認証精度が低下するという問題だ。マスクによって顔の大部分が隠れている場合、マスクに覆われていない目の周辺領域から特徴量を抽出して本人特定を行う。しかし、この方法だと顔全体の特徴量が抽出できず、本人確認のための情報量が少なくなる。このため、認証のたびにマスクを外して行う必要があった。
もう1つの課題が、手のひら静脈センサーの認識に“コツ”が必要な点だ。手のひら静脈センサーはセンサー上方にかざした手の静脈を読み取る仕組みだが、読み取れる高さはあらかじめ決まっている。しかし、初めての利用者などは、どの程度の高さが適切かが理解しづらい。
これらの課題を解決するために、富士通研究所は「マスク着用時でも高精度認証が可能なデータ学習技術」の開発と、「手のひら静脈装置のUI(ユーザーインタフェース)改善」を実施した。
マスク着用時でも高精度認証が可能なデータ学習技術とは、マスク非着用時の本人顔写真に、顔の特徴点や頭の姿勢に基づいて見え方を調整したマスク画像を重ね合わせて学習用画像を生成するというものだ。
この画像で学習したAIは、本人がマスクを着用している場合でも、マスク非着用時と同等程度の絞り込み精度を発揮できるようになる。マスク画像は色や柄、形などを変えたさまざまなパターンを生成できる。同技術をNISTが主催する顔認証ベンダーテストに投稿したところ、国内ベンダー首位を獲得したという。
手のひら静脈装置のUI改善については、装置の上面と側面にライトを設置して、手のひらと装置間の距離に応じてライトの光を変化させるようにした。装置上面のライトは、手のひらが装置に近づいている間は青色に、適切な距離がとれていれば緑色に、近づきすぎると赤色に発光する。側面のライトも同様の発光パターンを示すが、手のひらと装置の距離に応じて線状に光るライトの長さが変化するので、適切な高さがより視覚的に分かりやすくなるという。
なお、2021年1月21日から、両技術をローソン富士通新川崎TS レジレス店のマルチ生体認証技術に適用した実証実験を開始する。
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