IoTの可能性を広げる802.11ah、国内商用化に向けた「最後の山場」を迎える製造業IoT

802.11ah推進協議会は2020年12月4日、802.11ahのユースケース創出などに関する最新状況を報告する年次総会を開催した。国内商用展開に向けて、さまざまなエリアで802.11ahの特性評価などを検証しており、802.11ahの制度化に向けた各種取り組みも併せて進行中だ。

» 2020年12月07日 14時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 新たなWi-Fi通信規格として期待される「IEEE 802.11ah(以下、802.11ah)」の国内商用展開を目指す802.11ah推進協議会は2020年12月4日、活動の最新状況を報告する年次総会を開催した。国内商用展開に向けて、さまざまなエリアにおける802.11ahの特性評価などを検証している他、802.11ahの制度化に向けた各種取り組みも進行中だ。【訂正あり】

IoTの幅広い社会実装を後押しする可能性

 IEEE(米国電気電子学会)が標準規格として定める802.11ahは、公共で利用可能な920MHz帯の周波数を利用するWi-Fi規格である。920MHz帯自体は省電力性と一定の広いエリアをカバー可能なことを特徴とするLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークで既に利用されており、802.11ahもLPWAネットワークの1つに位置付けられる。ただし802.11ahは、従来のWi-Fiと同じ仕組みで運用できるためアクセスポイントの設置が容易である点、画像送信も可能な数Mbpsのスループットが見込め、広範囲での通信が可能な点など多数のメリットを併せ持っている。これらの特徴から、802.11ahは従来より幅広い分野におけるIoT(モノのインターネット)の社会実装を実現し得るとされている。

LPWAにおける802.11ahの位置づけ*出典:802.11ah推進協議会[クリックして拡大]
802.11ah推進協議会 副会長の鷹取泰司氏

 802.11ahの国内商用利用に向けた、802.11ah推進協議会の具体的な活動内容について、同推進協議会 副会長の鷹取泰司氏は、「さまざまな環境下での802.11ahの伝送特性評価」「Wi-SUNやLoRaなどを含めた920MHz帯の利用状況調査」「制度化に向けた取り組み」の3点を挙げる。

 1点目の伝送特性評価については、IoTの多様なユースケース創出につなげる意図から、住宅やオフィス、大型モール(東京ビッグサイト)などの屋内環境に加えて、都心部や都市郊外などさまざまなエリアにおける屋外環境でも評価を行った。この他、山間部や沿岸部でも評価を進めている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で都心部での評価のみ延期中ではあるが、測定した全ての環境下で良好な特性を発揮できることを確認したという。

 例えば、屋内環境で行った評価実験では、アクセスポイントから直線距離で50m以上離れた1階下の地点でも500kbps以上のIP接続を実現した。また、屋外都市部の実験では、ビル内に設置したアクセスポイントから200m以上離れたビル外の地点でも、場所によっては良好な通信接続を実現し得ることを確認したという。これについて鷹取氏は、「同じ200m地点でも、やはり高層ビルなどが立ち並ぶ場所などではどうしても通信状況は悪くなる。しかし、そこでも通信リンク自体は確立されることを確認している。802.11ahが広範囲をカバーする強力な通信規格であることを示すものだと考えている」と説明した。

屋外都市部での評価実験の結果*出典:802.11ah推進協議会[クリックして拡大]

 2点目の利用状況調査については、920MHz帯における空き周波数帯の見つけやすさを調べる意図がある。調査は東京都の新宿エリアの他、八王子市や神奈川県の横須賀中央、武蔵小杉、富山県など複数のエリアで実施した。その結果について鷹取氏は、「各地域でWi-SUNやLoRa、SIGFOXとみられる信号を検出したが、調査時間内での周波数帯利用率は1%以下にとどまった。トラフィックの発生頻度は低く、利用可能な周波数帯を見つけやすい状況にある。実用化後の802.11ahにとっても、その性能を発揮しやすい環境だといえる」と語った。

 3点目の制度化に向けた取り組みについて、鷹取氏は特に「802.11ahの使用により既存の通信規格との間で問題が生じないようにするため、920MHz帯の標準通信規格を既に策定していたARIB(電波産業会)の電子タグ作業班と協議を重ねた。いくらか難航する場面もあったが最終的に合意を得られた」と語った。具体的には、802.11ahで使われる周波数伝送方式(OFDM伝送)に合わせたスペクトルマスク基準の緩和や、1MHzチャネルを許容する送信帯域幅の拡大などを、既存の通信規格に反映することになった。

 今後は、総務省の電子タグシステム等作業班において、802.11ahの電波干渉チェックなどを行い、最終的に同省 情報通信審議会 陸上無線通信委員会での審議やパブリックコメントの募集など「最後の山場」(802.11ah推進協議会)を通過できれば、802.11ah規格の国内利用が可能になる。

【訂正】初出時、審議通過後のプロセスについて「正式に周波数割り当てが行われることになる」と表記していましたが、正しくは「802.11ah規格の国内利用が可能になる」の誤りでした。記事は修正済みです。

周波数割り当てに向けたロードマップ*出典:802.11ah推進協議会[クリックして拡大]

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