ちょっとNeoverse V1/N2を長く説明してしまったが、ここからは他の新IPについて紹介しよう。2020年9月29日に発表された車載および産業機器向けのComputing Solutionだが、もともと車載向けに機能安全関連(具体的にはロックステップやISO 26262関連ドキュメント類など)の機能を追加したバージョンとして展開してきたAE(Automotive Enhancementの略)について、産業機器向けに一般機能安全規格のIEC 61508に対応したバージョンもほしいという顧客が増えてきたことに対応して、この世代からAEで産業機器にも対応することになったとしている。これはCPUである「Cortex-A78AE」のみならず、GPUの「Mali-G78AE」やISPの「Mali-C71AE」も同じであり、今後はこうした形で産業機器向けもカバー範囲に入っていくことになると思われる。
もっとも、さらにこれを拡充して、例えばIEC 62278(鉄道向け)やISO 15998(土木機械)、あるいはDO-178(航空機)などまで広げてゆくか? というとこれはまた別の話のようだ。少なくとも現状は自動車向けと産業機器向けがターゲット、という話であった。
またちょっと後になるが、2020年11月2日には「Cortex-A78C」も発表されている(図12)。こちらは組み込みというよりはコンシューマー、それも主にChromeBookをターゲットにした構成で、big.LITTLEを捨て、bigコア(つまりCortex-A78のみ)を6〜8コア集積可能にするとともに、最大8MBのL3キャッシュを搭載することで性能の底上げを図った構成である。もはやCortex-Aシリーズは、モバイル向けだけではなく、さまざまな用途に幅広く提供するという意思の表れであり、逆に言えばそれだけの性能を実現できるようになった、ということの裏返しともいえる。
10月7日にはTotal Computeに基づくロードマップがArm DevSummitの中で公開された(図13)。「Matterhorn」というコード名は2019年のArm TechConでお目見えしたもので、これが「Arm v8.6」をフルサポートする最初のコアである。恐らくは、この後に登場する「Makalu」が、Arm v9をサポートする最初のコアになるだろう。今回は具体的な話は出ていないが、恐らくMatterhornは5nm、Makaluは5nm/3nmをターゲットプロセスにしていると考えられる。
もう一つ重要なのは、Matterhorn世代以降はついに32ビットサポートが廃止されることだろう。もし32ビットコードを走らせる可能性がある場合は、現在のCortex-A78やCortex-X1を引き続き利用する必要があるというわけだ。あるいは、LITTLEコアは引き続き32ビットサポートが継続され、今後は32ビットコードはLITTLEコアでのみ実行されるなんて実装も可能であろう。そもそもbigコアが毎年のように更新されているのに対し、LITTLEコアが引き続き「Cortex-A55」のまま、というのはそろそろ無理があるように思われる。2021年に入ればこちらも何らかの刷新があるかもしれない。
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