2020年10月20〜23日にオンラインイベントとして開催された「CEATEC 2020 ONLINE」において、「“デジタルアーキテクチャ”で作り出す産業構造のDX」をテーマに、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の特別セッションが行われた。本稿ではその内容を紹介する。
2020年10月20〜23日にオンラインイベントとして開催された「CEATEC 2020 ONLINE」において、「“デジタルアーキテクチャ”で作り出す産業構造のDX」をテーマに、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の特別セッションが行われた。新たに設立された「デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)」の狙いを紹介するとともに、デジタルアーキテクチャの重要性について掘り下げるパネルディスカッションを実施した。本稿ではその内容を紹介する。
日本の産業構造は、これまで「業」ごとに整備されたインフラやルールにより企業が個別最適化される形で構成されていた。しかし、横断的なデジタル基盤を展開する海外プラットフォーマーの台頭などが顕著となり各産業が大きな影響を受けるようになっている。その中で、デジタル時代に対応した形への転換が迫られている。
日本が実現を目指すSociety5.0時代は、多種多様なシステム間連携やディープラーニングをはじめとする新たな技術の浸透により、複雑化したサイバーフィジカルシステムが生活や産業の基盤を形成する社会となる。そのため、総合的な信頼性や安全性を確保するためには全体の見取り図(アーキテクチャ)が不可欠であり、ビジネス・エコシステムや法制度・ガバナンスの在り方も含めて社会システム全体が最適に設計されることが重要となっている。
同セッションで登壇した経済産業大臣の梶山弘志氏は「これまで業種、省庁ごとの縦割りで、個別に我が国のデジタルインフラは整備されてきた。例えば工場でも他の工場とはデータのフォーマットが違うことから、連携できないなどの事例が起きている。分断されたデジタルインフラの中で、企業もデータ駆動型のビジネスができず、安全・安心が担保されていなかった」と従来の課題について語る。
日本政府は、こうした社会システムを効率的に実現するため、アーキテクチャ設計を行う機関として2020年5月にDADCをIPA内に設立した。梶山氏は「経済産業省としてこれらの課題の解決策としてシステム同士が連携する際の全体の見取り図ともいえるデジタルアーキテクチャを設計するプロジェクトを開始する。新たなデジタルインフラの全体最適を考えて、横ぐしで効率的に整備するための土台となるものだ。Society 5.0においては、この土台の有無が産業競争力を左右する。このため、IPA内にデジタルアーキテクチャを検討する場を立ち上げた。ハード、ソフトのアーキテクチャだけでなく制度についても視野に入れ、社会全体のアーキテクチャを描いていくことを目指す」とDADC設立の趣旨を説明した。
DADC設立に当たる課題感として、DADCセンター長でファナック 副社長の齊藤裕氏は、個別最適化された中での分断の危険性を指摘する。「既にグローバルレベルでプラットフォーマーと呼ばれる企業がUX(顧客体験)をベースとしたサービスを展開する中、全体のアーキテクチャを考えることなく、個別の業界や企業がそれぞれのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていけば、サイバー空間でさまざまな個別最適化が進む。サービス利用者は提供者の異なる複数のシステムがつながっているSystem of Systems(システム・オブ・システムズ)の形態で複雑に組み合わさりながら広がっていく。その結果、データのオーナーシップの問題が発生する他、アーキテクチャやルール、ガバナンスの考慮がないままに、複雑でいびつな社会生活や企業活動を支えるようなシステムがサイバー上に生まれる恐れがある。これはサイバー空間と現実空間が高度に融合する社会システムとしてできるCPSにおいて、多くの課題を生み出す」と齊藤氏は考えを述べる。
Society 5.0というビジョンで目指す社会では、一定の自由と秩序でさまざまな人や企業が活動し社会を発展することを目指している。これらを実現するためには、サイバー空間上の無秩序を現実世界と連携させる危険を回避しなければならない。こうした背景からDADCは、Society 5.0を実現するためのアーキテクチャをデザインするセンターとして設立されたという。「多様な産学官の総合知を結集する透明性をもった中立的な場として機能させていく」と齊藤氏は語る。
DADCではSociety 5.0を実現するためのポイントとして齊藤氏は「縦の連携」「横の連携」「ガバナンス」を挙げる。
「縦の連携」はサイバーとフィジカルが信頼性をもって安全で効率的につながるレイヤー構造をイメージする。「横の連携」では、各企業が開発し分散したサービスが相互につながるイメージ構造を意味する。「ガバナンス」は連携を実現させるもので、縦横の連携を適切に社会で適用できるためのルールや制度などの仕掛けや仕組みを指す。
この3つのポイントを実現するため「3つの観点でアーキテクチャを構築することが重要だ」と齊藤氏は語る。3つの観点は以下である。
齊藤氏は「人やモノの認証やセキュリティ手法、物理的なモノとサイバーが一体となった社会機能のモジュール化が常に高度化し、速やかに社会実装されていく創造的なサイクルを実現するためには、アーキテクチャにこの3つの観点を取り入れることが重要だ」と述べている。
DADCによるこの観点での取り組みとして、3つのワーキンググループ(WG)を設立している。プラント保安を想定したつながるシステムの安心安全や日本の強みを生かすガバナンスを検討する「スマート安全」、ドローンを想定した自律移動ロボットが適切に活用できるインフラを検討する「自律移動ロボット」、地域モビリティを想定した持続可能なサービス実現に向けた仕組み(相互運用性を高めるアーキテクチャ)を検討する「住民起点MaaS」である。
また、DADCで扱うテーマを民間から募集するインキュベーションラボの取り組みを開始し「サービスロボットのより広範な活用」「Personal Generated Data(個人から生成されるデータ)を活用した健康管理・予防」「分野間のデータの流通・活用」の3つのテーマを採択したという。
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