東芝は2020年7月7日、非同軸型のソリッドステート式のLiDARにおいて、200mの長距離でも高解像度で画像スキャンを行えるようにする受光技術などを新たに開発したと発表した。LiDARは長距離測距と高解像度でのスキャン実行が両立困難だとされていたが、受光素子であるSiPMの小型化などを通じてこれらの課題を解決できる可能性があるとする。
東芝は2020年7月7日、非同軸型のソリッドステート式のLiDAR(Light Detection and Ranging)において、200mの長距離でも高解像度で画像スキャンを行えるようにする受光技術などを新たに開発したと発表した。従来、LiDARは長距離の測距と高解像度でのスキャン実行の両立が困難とされてきたが、受光素子の小型化などを通じてこれらの課題を解決できる可能性があるとする。
自動運転車の実現に必要とされるLiDARだが、その中でも特に注目を集めているのがMEMSミラーなどの半導体素子でレーザーの検出を行うソリッドステート式LiDARだ。駆動部にモーターを使って全方位的にレーザーの検出を行う機械式と比べると、ソリッドステート式は全方位の検出には対応できず、検知範囲が小さくなるというデメリットがある。
しかし、その分メリットも大きい。モーター部分を排する分、小型化と軽量化を実現できるため製造コストが削減可能だ。さらに小型化することで設置場所の制約も少なくなる。東芝 研究開発センター 上席研究員の崔明秀(さいあきひで)氏は「ソリッドステート式が持つこれらの利点から、自動運転車に搭載するLiDARは近/中距離用から始まり、将来的には遠距離用LiDARにおいてもソリッドステート式が採用されることになるだろう」と予測する。
また東芝はソリッドステート式を実現する上で、LiDARから発したレーザーの光路が往路と復路でそれぞれ異なるという「非同軸型」の投/受光系が必要となると認識している。「往路と復路を同じ光路にする同軸型だと、投光/受光を同一のレンズで行うために、大型のカスタムレンズを採用する必要がある。一方、非同軸型は受光系だけにレンズを組み込めばよい。また、市販カメラで使っているCマウントで柔軟に受光用レンズを調整できるため、用途に応じてシステム再構成が容易に行えるという利点もある」(崔氏)。
ただし実用化に向けては課題もある。1つは検出距離を長距離化すると、高解像度での画像スキャンが困難になるという問題だ。
東芝はLiDARの受光系にシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)という受光素子を使っている。SiPMは1個の光子を100万程度の電子数に変換できる非常に高感度な素子だ。200m以上の長距離となるとLiDARから投光した光子が数個しか戻ってこないが、その場合でもSiPMは正確な測距を可能にするため「自動運転の実現に不可欠なデバイスだ」と崔氏は評価する。
しかしSiPMの受光セルは電流が流れている間、他の光に反応できないという弱点がある。つまり太陽光が入ってきた後にレーザー光が入ると検出漏れが起きる。これを防ぐにはSiPM内の受光セル数を増やさなければならないが、同時にSiPM自体が大型化してしまう。このため受光系のパッケージ内に多数のSiPMを配置することができず、高解像度で画像をスキャンすることが困難だった。
もう1つの問題はSiPMからの画素読み出し回路が大型化しやすいという問題だ。「従来、近距離用と遠距離用ではそれぞれ別の読み出し回路を使っていた。大まかにいうと近距離にはレーザーの投光から受光までの時間がごく短時間でも高精度の時間測定を実現するTD(Time-to-Digital)コンバーターを、一方で長距離の場合はA-Dコンバーターを用いる。これらの2系統のコンバーターを搭載しなければならないという制約から、回路が大型化しやすくなってしまっていた」(崔氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.