会見の冒頭では、村田製作所と帝人フロンティアの両社トップがあいさつした。村田製作所 会長兼社長の村田恒夫氏は「これまで主に電子機器の分野で貢献してきた当社の技術と、帝人フロンティアの繊維技術を組み合わせることで、繊維分野における新たな価値創造に挑戦できることを大変うれしく思う」と語る。
一方、帝人フロンティア 社長執行役員の日光信二氏は「繊維業界で唯一、メーカー機能と商社機能を持つ企業として、マーケティング情報を基にした素早い商品化に取り組んでいきたい。当社が培ってきたポリマー、製糸技術と、村田製作所の圧電技術を融合させたPIECLEXが、持続可能な未来の生活に欠かせない画期的な繊維になると信じている」と述べる。
新会社のピエクレックスでは、圧電特性を扱うための電子技術や小型化が進む電子機器向けに培った電気的評価やシミュレーションの技術を持つ村田製作所と、繊維構造に関わる豊富な知見と幅広い繊維製品の開発、製造販売体制を持つ帝人フロンティア、それぞれの強みによって互いの弱みを補完できている。「互いに出し惜しみなくやっている。合弁にデメリットは一切ない」(ピエクレックス 社長の玉倉氏)という。
PIECLEXの原料となるPLAは、植物から抽出したデンプンの加水分解で生成する乳酸を重合反応して生み出される。植物由来であることによるカーボンニュートラル性に加えて、他の薬剤や有機溶剤などを用いないこと、生分解性を持つことなどから“環境に優しい”樹脂材料として知られている。
この“環境に優しい”イメージが強いPLAの圧電特性に着目して製品開発に取り組んできたことが、村田製作所と帝人フロンティアの共通点になる。村田製作所は圧電フィルムセンサー、帝人フロンティアは圧電組みひもセンサーなどとして製品化していた。
ピエクレックス 副社長の竹下氏は「電気の繊維であるPIECLEXとして、PLAを用いた植物由来による大きな循環だけでなく、人が動く力を再利用する小さな循環も作り出す、次世代型の循環型社会を実現する素材としてアピールしていきたい」と強調する。
今回の発表では、PIECLEXの持つ抗菌性能を主眼に置いた製品展開をまず推進するとのことだったが「電気によって人の細胞に働きかける効果で、美容系や医療系なども視野に入れた開発も進めたい」(玉倉氏)という。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大もあり、PIECLEXの抗ウイルス性能にも注目が集まる。竹下氏は「繊維における抗菌性能は、細菌の自己増殖を抑える性能を指す。一方、ウイルスは細菌と違って繊維中では自己増殖しないので、抗ウイルス性能については別途検証しなければならないが、可能性は追求していきたい」と述べている。
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