これらの生産性改善の取り組みは以前から行ってきたことだが、COVID-19期の今は「通常時にはなかなか進められない、高負荷が予測されるラインの改善や、チョコ停、サイクルタイム遅れの改善などに取り組んでいる。起動スイッチの位置変更や歩行距離の短縮などで9〜17%の生産性改善が進んだ事例が既に生まれている」(木村氏)という。
また、こうした活動の意義について「稼働時間に対して『ドカ停』が大きな影響を与えるように考えがちだが、ドカ停の発生は通常の活動で抑制できているケースが多い。実際に『iXacs』で影響時間を出してみると、サイクルタイムの遅れとチョコ停の方が稼働時間に与える影響は大きかった。これらは現場レベルで何となく対応してしまうために、通常の活動の中では見えてこないという課題がある。これらを改善するだけで大きく生産性を高めることができる」と木村氏は語っている。
同様にIoT活用で注目を集める「品質改善」や「予知保全」についても「iXacs」でのデータを基に木村氏は考えを述べている。
「旭鉄工としては、あまり成果が得られないと見ている。例えば、品質改善で期待される不良率の低減だが、旭鉄工の工程内不良は0.2%以下で、ほとんどがキズによるものだ。ここでIoTを活用してさらなる改善ができるのかと考えると運用効率があまりよくない。予知保全についても同様だ。予知保全が可能であれば防止したかった過去1年のドカ停の数は77件あったが、総稼働時間から考えるとそれは0.75%だった。そもそも全体に対する失敗データが少ない中で、機械学習が機能するまでに相当の労力が必要になる。その中でこの0.75%を下げることに意味があるのかと考えると、現状ではIoT以外の方法での対応の方が合理的ではないかと考えている」(木村氏)
生産性改善の取り組みにおける「サプライチェーンの競争力強化」については「iXacs」での改善指導を、旭鉄工のサプライヤーに行い、改善効果を分け合うような取り組みを進めているという。「2019年度は3社で取り組み、稼働率や不良率の改善などで成果が出てきた。製造業は多くの企業とサプライチェーンでつながっているが、サプライチェーン全体で競争力を高めていくという発想が重要だ。今後はさらに協力企業を増やしていく」と木村氏は語る。
「知識の共有」は「知識がないために改善できない」という状況をなくすための取り組みだ。旭鉄工内では、改善活動をリスト化して共有する「横展リスト」という取り組みを進めており、そのリストで似たような事例を参考にしながら改善活動を行う。今後は「これをデータベース化し検索性なども高めるようにしたい」(木村氏)。また、改善のEラーニング「i Smart Academy」なども用意しているという。
木村氏は「改善活動の市民ランナーを育成するということが重要だ。金メダルを取るようなトップランナーでなくても、とにかく走る人がたくさん生まれれば、組織としての改善は進む。そういう環境を作る必要がある」と語っている。
また、変化に強い製造業になるためには、新しいことに挑戦し続けることが重要となる。木村氏は「経営は差別化の追求だと考えている。そのためには人がやっていないことにどんどん挑戦していく必要がある」と語る。
実際に旭鉄工では、製造現場でAIスピーカーを活用して注目を集めたり、アイスクライミングのサポートを行ったり、さまざまな挑戦を続けている。現在は独自のフェイスシールドを開発し2020年7月からの販売を計画しているという。
「新たなことへの挑戦」といえば身構えてしまう場合も多いが「掛け算で考えることが重要だ。例えば、ある分野で上位10%に入っていたとする。ただ、同じように上位10%に入っている分野を3つ組み合わせることができれば、0.1%となり同じことをやっている企業はほとんどいない状況になる。そういう組み合わせを考えて、挑戦していくことが重要だ」と木村氏は発想の重要性を訴えている。
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