ここからは、OPC 40010-1としてOPC FoundationおよびVDMAから公開されている「OPC UA for Robotics Part 1」の中身を見ていきたい。
最初に注目すべき点は、規定される情報モデルの対象は「ロボット」や「ロボットシステム」ではなく、「モーションデバイス」「モーションデバイスシステム」と表現されていることだ。これは将来登場し得るさまざまなロボットやそのコントローラー、周辺機器にも対応できるようにするためである。
そもそも産業用ロボットの定義は画一的なものではない。例えば、JIS B 0134では「自動制御によるマニピュレーション機能または移動機能を持ち、各種の作業をプログラムによって実行できる、産業に使用される機械」と定義されており、アーム型など特定の形態に限定されるものではない。直交型ロボットや移動ロボット、特殊なリンク機構を有するロボットなど、さまざまな形態が存在し得る。これらを「モーションデバイス」と総称することにより、多くの自動機械(ロボットのようなもの)にも適用できるようにし、情報モデルの汎用性を高めている。
そのモーションデバイスシステムの主な構成要素と接続関係を示したのが図5である。この図は「OPC UA for Robotics Part1」が定める情報モデルの全体像そのものである。図中の左上にあるモーションデバイスシステムのための型が起点となり、その構成要素が階層的にぶら下がっている。モーションデバイスシステムの構成要素にはモーションデバイス、コントローラーおよび安全状態が含まれ、さらにモーションデバイスはパラメータセット、軸、駆動系(パワートレイン)、付加要素から構成されている。情報モデルの階層を降りていくに従い、統合されたシステムから個々のより細かな要素へと展開されていくように設計されている。
さらに規格を読み進めると、本情報モデルは、個々の構成要素が有するさまざまな状態量を格納可能なモデルであることが分かる。例えば、軸が持つパラメータセットには実際の軸位置(角度)、速度、加速度といった状態量が含まれる。また、駆動系はモーターとギアで構成され。モーターのパラメータセットにはモーター温度やブレーキ状態などが含まれる。この情報モデルに沿ってコントローラーが有するデータの実体を格納していけば、ロボットのような多くの要素で構成されるモーションデバイスの状態を階層的に表現できるのである。
2019年にリリースされた「OPC UA for Robotics Part 1」は、図6のようにモーションデバイスの状態監視や資産管理のためのインタフェースに関する仕様であることが、規格中にも明記されている。
ロボットコントローラーが全て「OPC UA for Robotics」に対応したサーバ機能を持っていれば、図中の「クラウド/データベース」にロボットメーカーごとに異なるアプリケーションを構築する必要はない。ユーザーは共通の情報モデルにもとづいて全ロボットを同様に扱うことができるため、例えば、「クラウド/データベース」から定期的に各ロボットの稼働状態を監視したり、モーター温度や運転時間の蓄積データから部品交換時期を予測したりするなど、本来のアプリケーション開発に注力できる。
ロボットメーカーとしても、競争軸にならない必須インタフェースとして「OPC UA for Robotics」を位置付けてしまえば、それ以外の独自の価値を生み出す領域に開発資源を集中できるのではないだろうか。ロボットからインタフェースの障壁を取り除き、より高い価値創造を志向するのが「OPC UA for Robotics」が目指す世界である。
「OPC UA for Robotics」は、特定のロボット機構に限定されず、モーターで制御される多くの自動機械(モーションデバイス)全般に適用できる共通のインタフェースを提供する。リリース済みの「Part1」はロボット上位系を意識した「垂直統合」が焦点だが、既に議論が開始されている「Part2」以降の動向にも注目である。ロボットや周辺機器同士の水平統合や、本来のロボットの価値である動作や作業に関わる部分にも踏み込んでいくのか、注視していく必要があるだろう。
≫連載「いまさら聞けない『OPC UA for Robotics』入門」の目次
岸 泰生(きし やすお)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア
名古屋大学大学院工学研究科を卒業後、産業用メカトロ機器メーカーの開発研究所に約15年間勤務し、ロボット技術や制御技術の研究開発に従事する。2018年にドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社に入社し、同社製品の応用技術を担当。同社技術の活用支援を通して日本のモノづくりの生産性向上に努めている。
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