特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

データで「何」を照らすのか、デジタル変革の“際”を攻める日立の勝算製造業×IoT キーマンインタビュー(2/3 ページ)

» 2020年03月03日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

期待の大きなロボットインテグレーター事業

MONOist 「際」を狙う動きの1つとしてロボットシステムインテグレーター(ロボットSI、ラインビルダー)事業への取り組みを強化しています。現在までの手応えをどう感じていますか。

青木氏 順調に体制を整えることができている。ロボットSI事業の強化に向けては2019年3月に日本のケーイーシー、2019年4月に米国のJR Automation Technologies(JRオートメーション)の買収を発表した(※)。製造現場ではデータが一元的に収集されていない難しさはあるものの、Excelなども含めるとさまざまな情報が収集されている。機器やシステム、データの集め方によって現状ではこれらを集積していない場合が多いが、こうしたデータをつなげていくだけで、製造現場の在り方は大きく変わると考えている。

(※)関連記事:日立がロボットSIを買収し北米ラインビルダー事業に参入、その2つの理由

 JRオートメーションは、搬送や溶接、組み立て、リベット接合、ピッキング、パレタイジングなど多様なライン提案力を持つ他、航空機や医療機器業界では業界認定基準に対応した高い品質を実現する技術力があることが強みだ。一方、ケーイーシーは特に溶接工程において産業用ロボットを活用するSI技術にノウハウと強みを持つ。これまで自動車業界を中心として生産ラインのシステムや設備の構築に計画段階から携わり、設計から製作、据え付け、メンテナンスまで一貫したソリューションを提供してきた。

 「プロダクト×OT×IT」を掲げるように日立は、さまざまなプロダクトを取り扱い、さらにインフラを含めた制御技術では強みを持つ。ERPを含むIT領域でも長年の実績があり、さまざまな領域でデータによりつながりを作ることができるのが特徴である。ただ、製造現場のライン構築やラインのオートメーション化については、社内の知見はあるものの、外部への提供は限定的に行っていた。そこでその足りない領域をカバーするために、ケーイーシーとJRオートメーションを買収した。これによりロボット活用によるラインSIとトータルデータSIを統合し、現場から経営まで一気通貫のデータ活用を実現する。そういう世界を構築したい。

photo 日立が考える製造業のデータ活用(クリックで拡大)出典:日立

製造現場のデジタル変革を支える

MONOist ロボットSI事業は薄利で厳しい業界だという見方もあります。あえてそこに飛び込む狙いについて教えてください。

青木氏 確かに日立でも以前は取り組んでいたロボットSIやラインビルダー的なビジネスを縮小していった過去がある。プロセスロボットを展開していた関係もあって取り組んでいたが、そのころはロボットSI事業そのものの地位が低く、市場や条件が非常に厳しかったため成長につながる事業ではないという判断だった。ただ、環境そのものが大きく変わってきている。

 1つの大きなきっかけとなったのが、アマダグループとの協創である。アマダグループは板金機械の大手企業だが、2019年4月に日立との協創を通じてIoTを活用したヒトに優しい次世代製造モデルを国内の主要拠点で構築することを発表している(※)。具体的には、富士宮事業所、土岐事業所でハンズフリーの組み立てナビゲーションシステムや生産計画立案の自動化システムを構築する。

(※)関連記事:IoTを活用した次世代製造モデルでアマダと日立が協業、効率的な製造現場を構築

 以前からアマダグループとはさまざまな取り組みを進めてきたが、その中で「トータルでラインビルディングに関わってほしい」という話をもらい中長期を視野に次世代製造モデルを協力して作り上げていくことになった。こうした話を受けて提案の方向性が間違っていなかったという手応えを感じた。人に頼る製造現場が厳しくなる中で同じようなニーズが今後さらに広がり、ラインからデータ統合までの総合SIのような役割が求められている。そこでこの領域を本格的に強化することに踏み切った。

photo アマダと日立の協創の内容(クリックで拡大)出典:日立

 今後デジタル技術を製造ラインに投入する流れがさらに強まってくる。その中で従来のラインSIだけではできない領域も生まれてくる。例えば、その1つとしてセキュリティの問題がある。ラインの機器やシステムそのものがさまざまな上位システムとつながり、情報交換を行うようになればセキュリティは必須となる。特にサイバー攻撃はセキュリティレベルの弱い部分に対して行われるため、現場から上位のシステムまで一貫して破られないシステム構築が重要だ。そういう意味では、製造業にとっての現場のラインと上位のシステムをバラバラに構築するだけでは不十分になる可能性がある。そういう隙間を満たしていく。

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