空飛ぶクルマを運用する企業の取り組みも進んでいる。エアモビリティの交通プラットフォームを開発するAirX(エアーエックス)は、まずはヘリコプターでの空の移動に対する実証を進めている。西武グループと連携し東京から箱根(神奈川県)、下田(静岡県)まで運行する取り組みを開始した。
将来的にはヘリコプターを空飛ぶクルマに変えて、コストダウンをはかる計画だ。ヘリコプターであれば東京と箱根間が35分、2万円弱の料金で実現するが、空飛ぶクルマになるとさらに料金は下がる見込みである。所要時間は通常時の一般車両と比較しても3分の1程度となり、東京〜下田間も空を飛べば55分で着く。料金が下がれば活用されるケースは一層増える見込みで、空飛ぶクルマの市場形成につながる。
三井物産は、大阪の夢洲でヘリコプターを使った実証を行った。関西国際空港と夢洲を13分で結び、神戸空港からでは5分で到着することになる。実証では所要時間とともに空飛ぶクルマに代わった場合の騒音、安全性などをチェックした。2025年には夢洲で大阪万国博覧会が開催されることもあり、これに合わせて空飛ぶタクシーの運行を目指している。制度の整備も行われる見通しだ。観光関連では、三重県の伊勢志摩で「空から見る新しい世界」として空飛ぶクルマによる「空の遊覧」を検討しているという。
空飛ぶクルマは、現状では、搭載する電池の能力により飛行距離、時間に制約がある。ただ、将来的には1時間程度の飛行が可能になると予想され、そうなると東京から200km程度の距離が容易に移動できるようになり、通勤に使うことも予想される。「空の移動により200km圏が短時間で自由に行き来できるようになれば、地方がなくなる可能性がある」と藤本氏はその可能性について言及した。
では、空飛ぶクルマ実現に向けた課題としてはどういう点があるのだろうか。藤本氏は「空飛ぶクルマ実現に向けて4つの課題がある」と述べる。1つ目は「技術開発」、2つ目は「インフラ整備・制度整備」、3つ目は「サービス事業者の発掘」、そして4つ目が「安全面を考慮した社会的な需要性の向上」だという。
政府は、2018年6月から未来都市戦略の中に、空飛ぶクルマを位置付けて、同年8月に官民協議会を立ち上げた。官側は経産省、国土交通省、総務省消防庁が入り、民間側は有識者、サービスサプライヤーとして関心を持つ企業、メーカーが加わり、12月には実用化に向けたロードマップを取りまとめた(※)。
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事業者によるビジネスモデルを提示し、それに対応したさまざまな制度、体制を整備し、課題解決に向けた環境整備を目指す。制度面では最初から自動運転とするのは技術的に難しいことからパイロットの技能証明、安全性の確認、発着場所のインフラ整備、空域や電波の調整を進める。技術面では安全性、信頼性はもとより自動飛行、運行管理、電動推進が課題となる。そして「野心的な目標だが事業のスタートを2023年、実用化の拡大(実際に都市の上空を飛ぶようになる)のが2030年代となる計画だ」と藤本氏は語る。
政府では、空飛ぶクルマおよび電動航空機を実現するための軽量化の技術開発を予算で支援する。また、空飛ぶクルマとドローンの運行管理、衝突回避についての技術も予算面でサポートしている。
自治体も積極的に関わる姿勢を見せている。2019年8月にはロボットテストフィールドがある福島県と、離島や山間地が多く観光業も盛んな三重県が、空飛ぶクルマ実現に向けた協力協定を結んだ。今後「教習所での研修」に当たるテストを福島県で行い、「路上試験」に当たる実証試験を三重県で実施することが計画されている。この2県以外にも、東京都や愛知県、大阪府も空の移動革命に向けた構想を発表しており、実現に向けた取り組みを進めている。
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