設計者のためのCAEが提唱されてもう相当な時間がたっています。その割に設計者によるCAEが定着していません。その原因は何なのでしょうか。
設計者CAEとは、設計の初期段階でCAEを使って設計の方向性を決めることです。複雑な解析は必要ありません。ですから自ずと解析の内容は線形静解析や固有振動数解析などのカンタンな解析となります。
製品開発プロセスと課題解決のための解析の難易度を見てみましょう(図3)。
開発プロセスが進むに従って必要な解析の難易度は上がっていきます。これをカバーするのが解析ツールです。解析ツールのカテゴリーを3つに分類してみますと、基本設計から詳細設計の初期段階までは、エントリーレベルの解析ツールが活躍します。解析機能としては、線形静解析、固有振動数解析、温度分布解析がカバーされていれば十分です。多くの場合、3次元CADにモジュールとして実装されている解析ツールが使われています。
さらに開発プロセスは進みます。詳細設計の段階では、より現実に近い解析が必要となり、解析難易度は上がります。ここでは、ミドルレンジレベルの解析ツールが用いられます。解析機能としては、接触を考慮したアセンブリ解析などがカバーされている必要があります。使いこなすには、計算力学の知識が欠かせません。
そして、製造フェーズに入ってくると、解析の難易度はグッと上がります。例えば、製造性の検討のための解析では非線形解析がメインとなり、使いこなすためには数値解析に対する高度な知見が必要となります。さらに、それ相当のハードウェアリソースも必要です。
製造業の現場に目を向けてみると、製品の新規設計は減っており、流用設計が主流となっています。流用設計とは、設計期間を短縮したり、品質を確保したりするために、既に性能が担保された製品の設計データを流用することです。つまり、設計データを流用する時点で“かなりの完成度である”といえますから、解析で検討すべき事柄は自動的に難易度が高くなります。単なる線形静解析や固有振動数解析では、検証できないのです(図3)。
設計者CAEの定義を見直さなければならない時期が来ています。
実際に設計者の皆さんは、筆者が想定するよりもずっと難易度の高い解析を行っていることでしょう。ただその割に、座学や構造解析の基本的なノウハウが抜けている場合があります。
新規設計にせよ、流用設計にせよ、解析という技術はこの先なくなることはないでしょう。内容が理解できないほど難しい解析をやりながらでも、この連載で構造解析の考え方を少しでも身に付けていただければ幸いです。 (次回に続く)
突然ですが、中田敦彦さんのYouTube大学をご存じですか?
5GやAI(人工知能)の最新情報から、日本や世界の歴史、政治、経済まで非常に分かりやすく説明してくれます。この動画、例えば日本史であれば最初に「エクストリーム日本史!」とコールしてから授業が始まります。それにちなんで「エクストリーム構造解析!」を分かりやすくお届けできればと思っています。
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