DOCOMO Open Houseで見つけた、「曲げた」部分が5Gアンテナに変わるケーブルFAフォーラム・イベントレポート(2/2 ページ)

» 2020年01月29日 07時30分 公開
[池谷翼MONOist]
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5Gのスポット利用を可能にするアンテナ

 NTTドコモ 先進技術研究所 ワイヤレスフロントエンド研究グループのブースでは、少し変わった着眼点で開発された研究成果物が展示されていた。曲げた箇所を5G用アンテナとして使用できる、フッ素樹脂製の誘電体導波路を用いたケーブル「曲げてアンテナ」だ。曲げてアンテナは、誘電体と電波の屈折率に関する既知の性質を応用し、ケーブルを曲げることで、ケーブル内部から外部の空気中へと電波が伝わっていく構造となっている。

ケーブルを曲げた箇所からのみ電波が放出される(クリックで拡大) ケーブルを曲げた箇所からのみ電波が放出される(クリックで拡大)

 通常はケーブルが曲がっていることは"問題"と見なされる。誘電体は空気に比べて高い屈折率を持つため、ケーブル内部に入った電波は、外部の空気と誘電体の界面を全反射しながら伝送されていく。この時、ケーブルを曲げると、曲げた箇所で界面に対する電波の入射角に変化が生じる。界面で電波を全反射できなくなり、反射できなかった一部の電波は外部へと漏出してしまうが、「裏を返せば、曲げた箇所を5Gアンテナとしても利用できるのではないか」(説明員)と発想したことが、今回の展示物の開発につながったという。

 高周波数帯の電波は、伝送域内の障害物に対して弱い。だが、このケーブルを電波を届けたい場所の近くに運び、曲げれば、5Gをスポットで安定的に利用できる。通信環境の安定性が求められる工事現場のほか、5G利用者の一時的な増加が見込まれる展示会やオフィス、会議室といった場所での利用を想定しているという。

曲げた部分に5Gの受信端末を近づけると、高解像度の映像が映し出された(クリックで拡大) 曲げた箇所に5Gの受信端末を近づけると、高解像度の映像が映し出された(クリックで拡大)

 アンテナの性能は曲げる角度によって調整可能。曲げる箇所を増やせば、その分、より広範囲の5Gエリア化も実現できる。また、誘導体導波路を用いたケーブルのため、高周波数帯の電波を低損失で伝送可能で、「高周波数帯における伝搬損失対策ツールとしての利用も検討している」(説明員)とのことだ。

「5G+AI」のPoCを、ローコストで実施可能にするキャリアボード

 エッジAIデバイスの管理用プラットフォーム開発などを手掛けるEDGEMATRIXのブースでは、エッジAIと5G用通信モジュールの組み合わせを可能にするキャリアボードが展示されていた。キャリアボードの完成は2020年3月ごろを見込む。

 NVIDIA製のGPU搭載デバイス(Jetson Nano/Xavier)に組み込まれたAIチップと、Telit Wireless Solutions製の5G通信モジュールを1つのボード上に搭載し、「エッジAI+5G」のデバイスとして使用できるようにした。「エッジAIや5Gのニーズは高いが、高価な端末を購入しなければならないため、導入に二の足を踏んでしまうケースもある。だが、このキャリアボードを使えば、エッジAIや5GのPoC(概念実証)をローコストで実行できるようになる」(説明員)。また、Jetson Nano/Xavierなどの高性能GPU搭載デバイスだけでなく、ドローンなどへの搭載に適した、小型で低消費電力のAIチップにも対応する。

NVIDIA製のAIチップを搭載したキャリアボード(左)にTelit Wireless Solutions製の5G通信モジュール(右)を搭載する(クリックで拡大) NVIDIAのAIチップを搭載したキャリアボード(左)にTelit製の5G通信モジュール(右)を搭載する(クリックで拡大)

 ユースケースとしては、キャリアボードにステレオカメラを接続し、自動運転車のAI画像処理システムとして使う、といった活用方法などを想定する。人やモノの物体認識はエッジAIで行い、突然目の前を歩行者が横切るなど異常を検知したときのみ、大容量の高解像度映像をサーバにリアルタイムで送信する、といった使い方が可能だ。

自動運転車向けAI画像処理システムのデモ展示(クリックで拡大) 自動運転車向けAI画像処理システムのデモ展示(クリックで拡大)

 以上、DOCOMO Open House 2020で目に止まった展示物を紹介してきた。今回の展示では、5Gの利点である低遅延、大容量転送といった特徴を生かし、主に映像送信の用途で活用する企業が目立ったように思う。導入効果が視覚的にも分かりやすいだけに、産業領域での5G活用は、まずはこうした分野から普及していくことになるかもしれない。

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