「VxWorks」などでRTOSの世界シェアが36%、商用組み込みLinuxの世界シェアでは同52%に達するウインドリバーは、Yocto Projectの設立メンバーでもある。
同社の商用組み込みLinuxであるWind River Linux(WRL)も、2012年末にリリースしたバージョンWRL 5からYoctoベースになっている。最新バージョンは2018年11月に発表したWRL LTS 18になる。
現行のWind River Linuxの開発プロセスは、Yocto Projectの成果を、WRLのCI(継続的デリバリー)/CD(継続的インテグレーション)をGitHub上で行う「Wind River Open Source Labs」に移し、それらの成果を基にGitHub上の「Wind River Labs」で各バージョンの開発を行っている。
小宮山氏は「組み込みLinuxを使う上で気になることは、組み込み機器に合わせた最適化、セキュリティ対策や知財保護などを含めたコンプライアンス、脆弱性対策、長期の運用と保守の4つになる。Yocto Projectにより組み込み機器に合わせた最適化が可能になるが、コンプライアンス、脆弱性対策、長期の運用と保守については、組み込みLinuxディストリビューションベンダーがそれぞれの対応する必要がある。これらの点での対応力が評価されて、WRLは高いシェアを確保できている」と語る。
ウインドリバーの場合、コンプライアンスについてはLinux Foundationのコンプライアンス認定プログラムである「OpenChain」に参画しており、2019年6月にOpenChainに適合した初の企業として認証を取得した。脆弱性対策についても、脆弱性情報データベースであるCVEの警告に基づき、毎年多くの修正とサポートバージョンのリリースを行っている。長期サポートについては、標準の5年に加えて延長サポートも行っており、1つの目安である10年サポートに対応した事例も多数あるという。さらに、世界14拠点、100人以上のサポートエンジニアによるワールドワイドのサポート体制も強みだ。
本稿の序盤で、組み込み機器の特徴の1つとして「機能追加を行わないこと」を挙げた。しかし、併せてそこで小宮山氏が指摘している通り、IoT時代に入って組み込み機器がネットワークとつながるようなってから、機能追加が求められるようになっている。
現在、ネットワークを介してクラウドなどと連携するのが一般的なIT機器の開発では「クラウドネイティブ」というアプローチが当たり前になっている。クラウドネイティブには、ソフトウェアコンポーネントをそれぞれ独自のコンテナにパッケージングし、リソースの分離を実現する「コンテナ化」、リソースの利用を最適化するため積極的にスケジューリングと管理を行う「動的なオーケストレーション」、アジリティと保守性を高めるためにアプリケーションをマイクロサービスに分割する「マイクロサービス指向」という3つの側面を持っている。
このうちコンテナ化は組み込み機器への機能追加でも大いに役立つ。「組み込み機器の分離技術と言えばハイパーバイザーが一般的だったが、LinuxのOS側で持つ分離技術を用いてアプリケーションを独立させるコンテナも選択肢に入ってきた」(小宮山氏)。
ウインドリバーは2019年6月、WRLを用いた組み込み機器でのコンテナ利用を容易にする新たな機能強化を発表している。拡張コンテナランライムである「OverC」を用いれば、組み込み機器向けにコンテナを構築、導入するための包括的なフレームワークの設計が可能だ。また、DockerやKubernetesのような開発やオーケストレーションのフレームワークのコンテナ技術も搭載している。小宮山氏は「ネットワークを介して機器の機能を変更する場合に分離技術の1つでもあるコンテナは極めて相性が良い」と述べている。
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