組み込みOSの“老舗”として知られているウインドリバーが、インテルの傘下から離れ、再度独立企業としての歩みを始めてから約1年が経過した。同社 プレジデントのジム・ダクラス氏に、現在の状況や事業戦略などについて聞いた。
全てのモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)時代を迎え、エッジ側にあるモノの制御をつかさどる組み込みOSの存在にあらためて注目が集まっている。クラウドベンダーであるAWS(Amazon Web Services)は2017年末に「Amazon FreeRTOS」を発表しており、グーグル(Google)はIoT向けプラットフォームとして「Android Things」を展開している。マイクロソフトは2019年4月、リアルタイム性の高い組み込みOS「ThreadX」のベンダーであるExpress Logicを買収した。
この組み込みOSの“老舗”として知られているのがウインドリバー(Wind River Systems)である。さまざまな分野の組み込み機器に用いられている「VxWorks」の他、組み込みLinuxである「Wind River Linux」も展開している同社は現在、新たなビジネスフェーズに入っている。1981年の創業の後、2009年から半導体メーカーのインテル(Intel)の傘下に入っていたが、2018年6月に米国の投資ファンドであるTPGキャピタル(TPG Capital)に買収され、再度独立企業としての歩みを始めたのだ。
新生ウインドリバーが発足して約1年が経過したが、現在はどのような状況なのか。来日した同社 プレジデントのジム・ダクラス(Jim Douglas)氏に聞いた。
MONOist インテルの傘下から離れて約1年が経過しました。どのような方針で事業を進めてきましたか。
ダグラス氏 ウインドリバーとしての根本的な経営方針は変わらない。世界各国で、さまざまな産業分野のクリティカルインフラのユーザーに向けて、組み込みOSや、それによって実現される安全性、セキュリティなどを提供してきた。これからもそれは変わらない。
もちろん変化もある。新体制になってから事業活動を広げている他、社外取締役を増やすなどしている。パートナーとの戦略的な提携も刷新した。
MONOist パートナーとの提携はどう変わったのですか。
ダグラス氏 インテルから独立したことで、プロセッサベンダーとの提携を広げやすくなった。実際に、独立するに当たって主要なプロセッサベンダーから矢継ぎ早に連絡をもらった。
独立したとはいえ、現在もインテルがパートナーであることは変わらない。しかし、組み込み機器のインストールベースでいくと、インテルよりもArmやPowerPCの方が多いのが実情だ。これらのプロセッサベンダー向けに注力するなど、現在は開発リソースの優先付けをはっきりさせることができている。インテルの傘下にあるときは、親会社であるインテルへの価値提供と顧客への価値提供の間でバランスをとりづらかった。
また、独立したことによって経営スピードが高まっている。売上高数百億米ドルの企業の一員であるのと比べて、はるかにスピーディーに経営判断を行える。
MONOist IoT時代を迎えて、組み込み機器や組み込みOSがあらためて注目を集めています。組み込みOSを長年提供してきたベンダーとしてどのように感じていますか。
ダグラス氏 これまでのIoTにおける議論では、どのようにデバイスをつなげるかが重視されてきた。つなげたデバイスのデータにアクセスし、その可能性をひもとくことが重要だったわけだ。しかし、真の価値はデータそのものにある。IoTがつながることによって、関わる全てに対してデータを提供できるようになる必要がある。
ウインドリバーは、先述したクリティカルインフラである、航空宇宙、防衛、通信、産業機器、医療、自動車などの幅広い分野で採用されており、これらの分野を横断した見方をできることが強みだ。これらの分野で共通しているのは、データが今後の収益の鍵になることではないか。中でも、自動車分野は、IoTをはじめとする新技術による差別化の影響が顕著に出るとみている。
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