実際に製造業の中でも活用する動きが広がっているという。「例えば、飲料製品の商品開発において、どういう水の品質に、どういうデザインのボトルを使うのか、フタはどういうものがよいのか、色はどうすべきかなどは、さまざまな選択肢の組み合わせで構成されている。従来は商品企画部門が、最終的には経験と勘で決めてきたが、量子アニーリングを使えば、科学的な根拠を基に判断が下せるようになる。こうした企画や開発の現場で実際に使われ始めている」と畔上氏は紹介する。
商品企画の重要なポイントを計算に頼るには抵抗感があるようにも感じるが「量子アニーリングは基本的にはAIと同様で1つの回答を示すというものではなく、可能性の高い候補をいくつかに絞り込むために活用すべきものだ。絞り込む過程を理論的に作ることができるのが最大の特徴だ」と畔上氏は意義について語る。
さらに「商品企画部門以外にもさまざまな活用ができる」と畔上氏は強調する。「製造業において経験や勘で判断している領域の多くが組み合わせ最適化問題で解決できる。工場の中での熟練工の技や、物流や搬送の最適化、工場配置の最適化など、さまざまな領域で活用できる」(畔上氏)。その他の領域についても、外貨交換の最適化、デジタルマーケティングにおけるチャットボットの回答最適化、スーパーマーケットのパートのシフト最適化など、さまざまな業界で活用が進みつつあるという。
これらの「組み合わせ最適化」については、AIを活用して行うことも可能だが、AIを活用すると「必要になるデータの量が膨大になる。量子アニーリングではデータ量はそれほど必要ない。多くの有効なデータが取得できないところでは量子アニーリングが生きる可能性がある。AIが強いところ、量子アニーリングが強いところを組み合わせてハイブリッドで構築していくのが理想だろう」と畔上氏は語っている。
ただ、導入に向けての課題も多いというのが現実だ。費用感としては「一般的にはPoC(概念実証)でも数百万円取るケースがほとんど」(畔上氏)で、決して安いものではない。ただ「1人雇えば年間で1000万円かかるといわれる中、そこで釣り合うかどうかをある程度計算することができる。人の配置の最適化などでは効果を出しやすい。人手不足で人を雇えない代わりにシステムで最適化を図るという考え方に立てば、かけられる費用感が見えやすい」と畔上氏は考え方について述べている。
一方でシステム構築にも一定期間が必要となる。業務課題の分析を行い、定式化し、それをシミュレーターで正しいかどうか検証する。ここで成果が得られれば量子コンピュータで検証し、そこで成果を確認できて初めて、既存システムとの組み合わせなども含めたシステム構築に入る。「PoCだけでも1〜3カ月かかる」(畔上氏)とする。
ただ「AIと異なり短期でもある程度の回答を出せるのが量子アニーリングの価値だ」と畔上氏は強調する。「AIだと十分なデータが確保でき学習が進むまでは成果が出ないが、量子アニーリングではすぐに成果が出る可能性がある。使いながら導入を進めていくことが可能だ」と畔上氏は語っている。
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