ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは、工学シミュレーションソフトウェアの最新版「ANSYS 2019 R2」に含まれる、3次元光学解析ソフトウェア「ANSYS SPEOS」に関する記者説明会を開催した。
ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは2019年7月5日、工学シミュレーションソフトウェアの最新版「ANSYS 2019 R2」に含まれる、3次元光学解析ソフトウェア「ANSYS SPEOS」に関する記者説明会を開催した。
「SPEOS」は、もともと光学/音響シミュレーションソフトウェアを開発するOPTISの製品であったが、ANSYSが2018年にOPTISを買収したことで、ANSYSファミリーに加わった(関連記事:VR空間で夜間ドライブも忠実再現して体験、自動運転システムの開発支援に)。説明会では、「バーチャルコックピット開発&評価システム」と題し、自動車開発における快適居住キャビン開発、運転視界とHMI(ヒューマンマシンインタフェース)開発における新機能や機能強化のポイントを紹介した。
冒頭、アンシス・ジャパン エンタープライズアカウント事業部 ディレクター 兼 オプティス・ジャパン 代表取締役社長の芳村貴正氏は「2025年には自動運転車が普及し、コックピット(運転席)が不要となり、“キャビンが動く時代”が到来する。そうなると、今まで以上にどれだけ車室内の空間が快適であるかが商品価値や自動車のブランディングにつながってくる。その“快適”を作り出す要素として挙げられるのが照明、音、空間だ。これからの自動車開発はこれら要素のベストバランスが求められる」と述べる。
高度な光学解析を実現するANSYS SPEOSは、ソフトウェアの中に太陽光をはじめとする各種光源のスペック、光が反射する素材の特性、環境光、年齢による人間の目の特性といった各種アルゴリズムを備えているという。3Dモデルに対して、こうした要素を適用し演算を行うことで、一般的な3D CGでは表現できない、現実世界に極めて近い物理現象を再現した高度な解析結果を得ることができる。
説明会では、BMWが車室空間の設計においてANSYS SPEOSを活用し、車室空間の快適性の追求に注力している点について触れ、「ANSYS SPEOSであれば、内装部分に組み込まれたLEDの光がダッシュボードに当たった際に、どのように光がフロントガラスに移り込むか、あるいは光の当たった素材部分がどのような色で見えるのかといったことをくまなく検証できる。こうした高度な検証は3D CGでは実現できない」と芳村氏は説明する。
また近年、3D CGをベースとするVR(仮想現実)環境でのデザイン検証なども進んでいるが、「3D CGでの検証だと、実際にモノが上がってみて『イメージと全然違う!』ということがよくあり、結局手戻りが発生してしまう。だからこそ、設計した3Dモデルをベースとし、シミュレーション技術で光による課題をつぶしていくプロセスを取るべきだ」(芳村氏)と強調した。
シミュレーション技術を用いた検証のメリットの1つとして、複数人でその事象を確認できる点が挙げられる。例えば、ヘッドランプの配光を検証する場合、従来は実車でテストする必要があった。そのため、事象を確認できるのは一瞬だけで、ドライバーしかその状況を知ることができなかった。これに対し、シミュレーション技術を用いたバーチャル検証であれば、制御プログラムなどと連携したドライブシミュレーターを用いて、複数人でヘッドランプの配光を検証できる。こうしたバーチャル空間でのシミュレーション技術の活用は、非常に手戻りが多いとされているHUD(ヘッドアップディスプレイ)の設計にも有効で、大幅な工数削減が期待できるという。
このようなシミュレーション技術を用いたバーチャルコックピット開発および検証は、特に欧州で進んでいるとし、「フォルクスワーゲングループ傘下のベントレーでは、バーチャルコックピット開発を取り入れ、迅速な意思決定に活用している。日本の自動車メーカーでの採用はまだ遅れているため、今後の採用拡大に期待したい」と芳村氏は展望を述べる。
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