日本発の元祖スマート工場が歩む道と、標準化が進む第4次産業革命向け通信規格の動向MONOist IoT Forum 福岡2019(前編)(2/3 ページ)

» 2019年06月27日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

ねじ締めのポカヨケを簡単に実現

 これらの取り組みにおける自社実践の成果の1つがねじ締め作業指示システムである。同システムは三菱電機のサーボアンプの基板工場で活用するために自社で開発したシステムを外部に販売するようになったものだという。

photo ねじ締め作業指示システムのイメージ(クリックで拡大)

 ねじ締め作業支援システムは、人手によるセル生産を支援するデジタル屋台である。作業指示をHMIに表示するとともに、PLCを活用して使用するねじの指示などを出す。さらにねじ締めのトルクなども管理し、ねじ締め作業の良否判定なども行う。これらの作業実績をデータとして管理し、機種ごとの不良率や作業者ごとの作業時間などを分析。作業者の教育や設計の見直しなどフィードバックを行える。

 「人の作業を支援するため作業効率を上げられるだけでなく、人手による作業をデータとして取得できるようになるということも大きな価値だと考えている。ねじ締めのトルクや作業している製品、作業者、作業日時などをひも付けし、熟練度や作業品質などさまざまなデータ分析が可能になる」と森田氏は価値を強調する。

 さらに森田氏はこれらのねじ締め作業支援システムなどの工程作業の改善から徐々に広げたり、深めたりしていく重要性を訴える。「IoTは示される範囲が広すぎて、どこをどのように改善すれば正解なのかが見えなくなるような場合も多い。これらを明確に示し、取り組みの位置付けと今後の方向性を明確に示し運用を広げていく取り組みが重要だ」と運用面でのポイントを強調する。

 三菱電機では具体的には「スマートマニュファクチャリング改善レベル(SMKL)」という基準を定め、位置付けを明確化した上で取り組み範囲を広げているという。SMKLは、「設備や作業者レベル」「生産ラインレベル」「工場全体レベル」「サプライチェーンレベル」という管理対象のレベルと、「データ収集」「可視化(見える化)」「分析(観える化)」「改善(診える化)」という改善レベルをマトリクス構造で示し、スマート工場化への取り組みを評価するものだ。

 「例えば、ねじ締め作業指示システムであれば、管理対象は『設備や作業者』というレベルであり、改善レベルでは『改善(診える化)』を目指しているといえる。位置付けと現状などを示すことで今後の取り組みの指針になる」と森田氏は述べている。

 さらに、SMKLレベルで、ラインや工場全体の改善につなげた事例として「面実装稼働管理システム」の導入がある。これは面実装ラインにおける稼働状況を管理し、設備やラインの停止ロスや部品実装ミスによる品質ロスの発生を抑えるシステムである。従来は、この原因究明を熟練作業員の経験と勘に頼っていたが、それでは対応に時間がかかり、対応者によってバラツキも出ていた。

 これに対し、各実装機にMESインタフェースユニットを設置し、そこから「e-F@ctory サーバ」に稼働情報を吸い上げることで、予防保全と停止時の即時フィードバックなどが可能となった。これにより「生産性は30%上がり、品質不良によるロスを50%削減することに成功した」(森田氏)という。「生産管理システムと連動させ、実装部品がなくなったら仕入れ先に自動発注するようなことも進めている」と森田氏は語る。

デジタルツイン、AI、プラットフォーム間連携

 今後の取り組みとしては、さらに新たな技術を採用することで、改善範囲の拡大に取り組むという。

 その1つが「デジタルツイン」である。3Dシミュレーターを活用し、サイバー空間でPDCAを回すことで実際のラインを変えずに改善活動を進められるような世界を描く。「サイバー上のモデルをいかにリアルに近づけられるかがポイントとなる」と森田氏は強調する。

 「デジタルツイン」の世界はすぐには実現できるものではないが、これを目指す取り組みの1つとして各種設計データの連携を始めているという。「従来は電気設計と制御設計でそれぞれが参照情報などを設定する必要があった。これらを設計データからそのまま相互に読み込めるようにした。これにより入力の負荷を低減できる他、一元化された情報でシミュレーションできるため、生産現場で設置する際の調整時間を短縮できるようになった。加えて、保守や保全などの用途でもより迅速な活動が行えるようになった」と森田氏は価値を語る。

 その他、エッジ領域で使う三菱電機のAI技術「Maisart」への取り組みを強化する他、Industrial Value Chain Initiative(IVI)が仲介し三菱電機なども参加するプラットフォーム間で製造データを自由に流通させられるフレームワーク「コネクテッドインダストリーズオープンフレームワーク(CIOF)」(※)などを活用し、より広い製造データ連携を目指していく方向性などを示した。

(※)関連記事:乱立する製造IoT基盤は連携する時代に、IVIが製造データ連携フレームワーク披露

 森田氏は「IoTで重要なのは、目的や現状に合わせた取り組みを進めていくことだと考えている。上手に活用し日本のモノづくりのさらなる活性化を実現したい」と語っていた。

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