デジタル技術による変革が進む中、製造業はどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けながら、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかを取り上げる。最終回となる第4回では自然言語活用の具体的なポイントを解説する。
デジタル技術による変革が進む中、製造業はどのようなことを考え、どのような取り組みを進めていくべきだろうか。本連載では「AIによる自然言語処理」をメインテーマと位置付けつつ、製造業が先進デジタル技術とどう向き合うかについて取り上げてきた。
第3回では、企業の「英知」は報告書などの自然言語で記述された文書に存在しているものの、自然言語で記載されているためにアクセシビリティーが課題となり、十分な活用ができない状況であることを述べた。さらに、その課題を解決するための1つの手段として自然言語AIの活用があると訴えた。最終回となる第4回では、筆者が考える自然言語活用の具体的なポイントを述べたい。
先述した通り、筆者は自然言語データからの知識獲得のためにAI活用が有効であると考えている。ただ、企業内に蓄積された膨大な量の自然言語に含まれる内容を漏れなく把握し、さらに関連性のあるトピックを抽出し、必要な情報にアクセスできるようにするのは簡単なことではない。
そのために必要となるものがある。そのポイントを以下にまとめた。
1つ目のポイントが、トピックの関連性を把握するということである。企業が保有する自然言語データは膨大だ。人間が隅々まで読み込み、さらにトピックの関連性までを含めて情報を整理することはほぼ不可能なレベルに達しつつある。また、物事の掘り下げ、横串の視点、観点の切り替え、網羅性などが求められるが、これらを全て満たすという点についても、人間の能力を上回る取り組みが必要になる。
しかし、企業の膨大な報告書などに記載されているトピックを抽出し、さらに関連するトピックを結び付けて可視化することができれば、人間の認識能力の限界を超えた視点を手に入れ、企業の開発生産性向上に大きく寄与できるはずである。これらを実現するための方法として、筆者はグラフアルゴリズムに基づく可視化手法が有効であると考える。
グラフアルゴリズムは、電車の経路図を想像してもらうと分かりやすい。自然言語の中からハブとなるトピックを抽出し、さらにそこに関連付いているトピックをひも付けて可視化する仕組みである(図2)。例えば、何らかの部品の新規開発をする際に、部品の「素材」「特性」「部品種」別に、過去の報告書から関連するトピックを抽出し、関連させて表示させる。これにより、従来は熟練者の経験などに頼っていたところを、網羅的な設計観点を入手することが可能となる。このトピック抽出とトピック間の関連性ひも付けのところに自然言語処理AIを活用するわけだ。
さらに、グラフアルゴリズムの特性として経路検索などへの応用が可能である。これにより、次のような分析が行える(図3)。スタート地点に開発対象物(部品や素材など)、ゴール地点に解決したい課題(性能向上、耐久性向上など)をセットし、途中経路を算出するのである。そうすると、過去の知見より、対象物に対する課題解決の道順が経路として可視化できるのである。製造業の課題解決にかかる時間の大幅な短縮に寄与できると考える。
ここで可視化するのは、企業の内部データにとどまらない。例えば、特許に関するデータ、学会論文、その他公知情報としての技術情報などを、企業の報告書などと合わせて分析することで、内部の情報と外部の情報をひも付けて可視化することも可能である。先行開発に取り組んでいる際に、企業内部情報と社外の論文などをひも付けることで、思いもよらないアイデアを外部の情報から発見することも可能となるだろう。
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