Armが車載分野向けの事業戦略について説明。「車載分野で事業を展開して既に20年の実績がある。今やADASにはほぼ必ずArmのプロセッサが入っており、自動車メーカーやティア1サプライヤーからの信頼も厚い」(同社)という。
Armは2019年4月4日、東京都内で会見を開き、車載分野向けの事業戦略について説明した。同社 ADAS(先進運転支援システム)/自動運転プラットフォーム戦略 ディレクターの新井相俊氏は「Armは車載分野で事業を展開して既に20年の実績がある。今やADASにはほぼ必ずArmのプロセッサが入っており、自動車メーカーやティア1サプライヤーからの信頼も厚い」と強調する。
同社は車載分野向けのプロセッサコアとして2018年9月に「Cortex-A76AE」、同年12月に「Cortex-A65AE」を投入している※)。これらのAE(Automotive Enhanced)製品は、スマートフォンなどのクライアントコンピューティング向けの製品と比べて「プロセッサアーキテクチャやインターコネクトなど共通の技術要素もあるが、AE製品は車載向けに特化したプロセスで一から開発している」(新井氏)という。
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AE製品の最大の特徴となるのが、自動車向け機能安全規格のISO 26262に準拠した車載システムの開発に対応できるプログラム「Safety Ready」である。Cortex-A76AEとCortex-A65AEは両方とも、「Split-Lock(スプリットロック)」という機構を採用しており、このSplit-Lockによって、最大16個搭載可能なプロセッサコアについて、処理性能を重視する使い方となるSplitモードと冗長性を重視するLockモードを動的に組み替えられるようになる。Lockモードを使えば、ISO 26262で最も安全要求レベルが高いASIL-Dにも容易に対応できる。
Split-Lockを中核とするプロセッサコアに加えて、セルフテストライブラリ(STL)やコンパイラ、ツール、リアルタイムOSなどのソフトウェア、ISO 26262の第三者認証に必要なプロセスや文書といったメソドロジ、これらの3点セットによって実現しているのがSafety Readyになる。
自動運転車向けと銘打って開発されたCortex-A76AEとCortex-A65AEだが、現在の自動運転車開発ではNVIDIAのGPUが広く作用されていることが知られている。この状況について新井氏は「現在の自動運転開発では、トランクにサーバクラスのコンピュータを搭載して行われている。その消費電力は2000〜3000Wとも、5000〜6000Wとも言われている。しかし、こんな消費電力とコストでは、開発した自動運転車を量産展開することはできない。Armが担うのは、この消費電力とコストを10分の1以下に削減し、Deployable(展開可能)なものにしていくことだ」と説明する。
また、ADASと自動運転車の開発ではCortex-A65AEが重要な役割を果たすという。ハイエンドのCortex-A76AEに対して、Cortex-A65AEはミドルレンジもしくはローエンドと見る向きもあるがマルチスレッディングに対応している点が大きく異なる。新井氏は「2020年のクルマには200個以上のセンサーが搭載されるといわれている。これらのセンサーからのデータを高い効率と信頼性で収集するのにマルチスレッディングは重要だ。また、ADASにおける検知に用いられるアルゴリズムの処理にも役立つ」と述べる。実際に、2018年12月の発表以降、欧州自動車メーカーからコックピット向けに採用したいという要望を受けているという。
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