ルネサスは、e-AIの性能を1.5年ごとに10倍にするロードマップを示している※)。その進化のベースになっているのが、AIの推論実行を効率よく行える、動的に再構成が可能なプロセッサ技術「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」だ。2018年10月にはDRP搭載製品の第1弾「RZ/A2M」を発表しており、2019年末〜2020年にかけてDRPをさらに進化させた「DRP-AI」を搭載した製品の投入を計画している。DRP-AIは、2018年6月の「VLSI技術シンポジウム」で学会発表されており、順調に開発が進めばロードマップ通りに製品投入できる見通し。
※)関連記事:ルネサスの組み込みAIの性能は10倍×10倍×10倍で1000倍へ「推論に加え学習も」
同社 インダストリアルソリューション事業本部 シニアダイレクター 兼 インダストリアルオートメーション事業部長の傳田明氏は「e-AIは、e-AIトランスレータなどの開発環境の投入によりClass-1、DRPの採用でClass-2、DRP-AIによりClass-3となって処理性能が10倍ずつ進化する。Class-4となるDRP-AI 2の導入時には、高価なAIチップと同じ処理性能を1〜数Wの消費電力で実現できるだろう。これは、工場などの冷却が厳しい環境でも使えることを意味している」と訴える。
また、e-AIの導入事例として、ルネサスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)をはじめとするスマートファクトリー化の取り組みを紹介した。同工場では、後工程を中心にClass-1のe-AIを用いたAIユニットを150台導入している。これらのAIユニットによる予知保全の実現で生産リードタイムを3分の2に圧縮し、システム全体で年間10億円のコスト削減効果がえられているという。今後は、ルネサスの他工場を含めて3000台のAIユニットを導入するとともに、目視で行っている検査プロセスなどにClass-2以上のe-AIを導入していく方針だ。
一方、SOTBは、超低消費電力が可能な製造プロセス技術でありe-AIとは直接の関係はない。理論値として、アクティブ電流が10μA/MHz、スタンバイ電流が100nAを実現可能なため、太陽光や振動など環境発電(エナジーハーベスティング)でも動作するマイコンを開発でき、実際に2018年11月にSOTB組み込みコントローラーとして「R7F0E」を発表している。R7F0Eは、環境発電に対応するため専用のコントローラーやADコンバーターなども搭載している。
そして横田氏は「当社が注力するスマートファクトリー、スマートリビング、スマートインフラといったスマート市場への期待と、維持コストや導入コストといった事業実現性の間には『死の谷』が横たわっている」と指摘する。
これら事業実現性という課題に対して、「DRPによりe-AIチップは、競合他社のAIチップの10分の1以下となる。数百円から、高くても1000円、2000円程度で提供できるので、導入コストを抑えられる。SOTBは、環境発電などを活用できるので、電力供給の確保や電池交換などが不要になり維持コストを抑えられる」(横田氏)とする。つまり、e-AI、DRP、SOTBによって、先述の「死の谷」を克服でいるというわけだ。
横田氏は、組み込みAI市場が2018〜2022年度にかけて年率83%で成長し、2022年度に20億米ドルに達するというガートナーの調査を示した上で、「e-AIとSOTBにより、この組み込みAI市場で破壊的イノベーションを起こし、リーダーシップを発揮していきたい」と述べている。
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