「搬送」工程の自動化に対し、導入が大きく拡大しているのが、無人搬送車(AGV)である。調査会社の矢野経済研究所によると、国内のAGV市場だけを見ても、2016年度以降市場は拡大傾向が続いており、2018年度の市場は前年度比106.0%の147億8200万円まで成長する見込みとしている。2020年度にかけては設備投資の一服感により減少する見込みだが、その後も安定的に一定の市場規模を維持する見込みとされている。
AGVは以前から工場内で使われてきたが、再注目されるきっかけとなったのは電磁誘導ガイドやマーカーの敷設などが不要な、非ガイド式の自律型AGVが登場したためである。従来のガイドが必要なAGVでは固定的な搬送路を行き来するだけでさらにそのレール上に人がいたり、障害物があったりすると通ることができない。またそのガイドを敷設することが大きな負担となっており、結果としてそれが工場内の柔軟なレイアウト変更などを阻む要因となっていた。そのため、結局は“ミズスマシ”とされるような台車で人が運ぶようなケースも数多く存在していた。
しかし、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping、環境地図作製と自己位置推定)技術などの発展により、動作環境を測定し自動的に地図を作り、レーザースキャナーなどの測定結果を照らし合わせて自律的に動くAGVが登場したことにより、ガイドの敷設などが不要になった。人や障害物などを自律的に避けて最適なルートを選択するような関連ソフトウェアなども広がりを見せており、環境に対して柔軟に変化に対応できる生産ラインの実現などのめどが立ち始めた。
特にこの自律型AGVと協働ロボットなどを組み合わせ、自由に部品などを積み下ろししながら運搬する仕組みが、搬送専用治具の作成負担などを軽減し、工場の柔軟性を高めつつ、自動化を進められる点で大きな注目を集めている。
これらの自律型AGVが大きな注目を集めている背景として、スマート工場で実現したい価値として挙がる「マスカスタマイゼーション」には、自律的に柔軟に変化する生産ラインが必要になるからである。マスカスタマイゼーションとは、一品一様のカスタム製品を大量生産(マスプロダクション)の生産性で実現する概念や仕組みのことだ※)。
※)関連記事:いまさら聞けない「マスカスタマイゼーション」
その実現には、受発注から製品開発、設備開発などの各工程で分断されているシステムがシームレスに連携できるということが前提となる。これに加えて、生産ラインそのものも受注状況などに合わせて自由に変化する「可変ライン」が求められる。
品質面を考えるとロボットなどの作業工程そのものを柔軟に変化させることは難しい。そこで、ワークそのものをそれぞれのワークステーションに自由に行き来させながらモノづくりをするワークショップ型のモノづくり体制が必要になる。これを実現するのが「自律的な搬送」となり、自律型AGVへの関心が高まっているのである。2019年も自律型のAGVについてはさらに導入が広がることだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.