アセントロボティクス(Ascent Robotics)は「Embedded Technology 2018/IoT Technology 2018(ET2018)」(2018年11月14〜16日、パシフィコ横浜)において、市街地での自動運転の実現に向けた人工知能(AI)の学習環境と実験車両を紹介した。
アセントロボティクス(Ascent Robotics)は「Embedded Technology 2018/IoT Technology 2018(ET2018)」(2018年11月14〜16日、パシフィコ横浜)において、市街地での自動運転の実現に向けた人工知能(AI)の学習環境と実験車両を紹介した。
アセントロボティクスは2016年に創業したスタートアップのソフトウェア企業だ。同社は運転支援技術を段階的に高度化して完全自動運転を目指すのではなく、起業時から自律型の完全自動運転に焦点を当てる。高速道路での自動運転については、自動車メーカーやティア1サプライヤーが既に開発を進めていることから注力しておらず、市街地向けに特化して開発を進めている。
協調型の自動運転について、ET2018の基調講演に登壇したアセントロボティクス 代表取締役の石﨑雅之氏は「今ある技術でも実現可能で、自律型よりも実現が早いだろう。ただ、高精度地図などのインフラの整備と維持の負担が大きいのではないか」と見る。
自律型の自動運転では、システムが周囲の環境を認知し、状況を判断しながら走行しなければならない。石﨑氏は「認知や判断にAIを使うことは自動車業界全般の動向となっているが、判断についてはルールベースが主流だ。周囲の状況をパターン化し、こういう時はこうしなさいというプログラムにする。簡単な道路環境であれば例外が起こりにくくパターンを設定しやすいが、市街地の複雑な状況下でルールベースで判断するのは難しい」という。
運転の自動化レベルのうち、レベル3ではシステムが判断できない状況でドライバーに運転の権限を委譲することができる。しかし、レベル4以上の完全自動運転では「例外的な事態に最後までどう対応するかが必須事項になる」(石﨑氏)。そのため、アセントロボティクスはルールベースの判断にこだわらず、人間の脳が空間を理解する仕組みをAIのアルゴリズムに応用しようとしている。人がどう歩くか、クルマが何秒後どう移動するか、周囲の動きを予測してどのように自分が進むかを判断できることを目指している。
「人間は知らない場所でも運転できる。AIにも人間のように認知、判断させたい。社内にはニューラルサイエンス、いわゆる脳科学の専門家がいる。脳がどういう風に空間を把握するかをアルゴリズムに落とし込むべく研究している。ニューラルサイエンスと深層強化学習でアルゴリズムを開発していく」(同氏)
アセントロボティクスは、AIに効率的に学習させるための環境「ATLAS」も自前で手掛ける。自動運転にのみ特化した3次元シミュレーターで、「リアルタイムの100倍以上の速度でシミュレーションを回せる」(同社の説明員)。
同シミュレーターはVRエンジンとも連携しており、エンジニアがシミュレーターの中で車間距離の取り方や障害物のよけ方など運転の“お手本”を示したり、運転中にドライバーがどこに注意を払うかというデータを学習データとして取り込んだりすることができる。これによって、人間と同じように認知、判断できるAIを育てる。
AIが学習するための道路環境のシナリオは、天候、歩行者や他の車両の動き、道路の形状、障害物の有無など、ヒヤリハットな場面も含めて自由に設定可能だ。また、人力で設定するだけでなく、AIが自動生成することもできる。
「自動運転用のAIが苦手な環境も、シミュレーター側のAIが相手を分析して生成する。どういう時に危険な状況が起きたか、どういう時に判断できなかったか、シミュレーションでのこれまでの走行データを見て、『このパターンはどうだ』とシミュレーターのAIがシナリオを作る」(同社の説明員)。シミュレーターのシナリオで自車以外の車両や歩行者がリアルに自律して動くため、モデルとなるデータも収集している。車両や歩行者を自由に増やしたり減らしたりすることで、さまざまな環境でAIが学習できるようにする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.