さて、台風の連発ですっかり秋めいてきていますが、矢面さんはいつも通り印出さんを訪ねてきたようです。
印出さん。こんにちは。今日も元気バリバリですよ!
あら矢面さん、こんにちは。なんだか暑苦しいわね。
いやあ。厳しいツッコミ参ったなあ。ちょっと無理にでもポジティブにならないとやってられないことがありまして……。
まったく元気ないじゃない。どうしたの?
うちの社長が業界団体の会合で競合企業のライヴァル製作所の社長に言い負かされたらしくて、社内ですごく荒れているんです。
そりゃまたどうして?
そのライヴァル製作所の社長は最近、ドイツの大手企業のスマート工場に視察に行ったらしいんですが、それが思ったほど大したことはなかったようなんです。
あら、そうだったの。
そうなんです。それで、その社長はもともとIT嫌いだったこともあって「ほれ、見たことか」とうちの社長にかみ付いたらしいんですね。うちの社長は印出さんの影響もあってスマート工場推進派になっていたので。
あら、何かひとごとではなくなってきたわね。
ところが、社長はうまく答えられなくて、一方的に押されたらしいんです。特に「スマート工場化しても、もともとの作業プロセスがだめだったら意味がない。おたくらの会社のようにドイツ企業のまねをしても意味がない」ということは強く言われたらしくて……。それで会社に帰ってきて「お前らが、有無を言わせへん成果を出してへんからや」と怒っちゃって、大変だったんです。
なるほど、そういうことね。でもそのライヴァル製作所の社長さんの話も一理あるわね。
えー、印出さんがそんなこと言っちゃうんですか。
「スマート工場化しても、もともとのプロセスが駄目であれば意味がない」というのはまさにその通りだと考えます。単純に製造装置などにセンサーを付け、データを見えるようにしたとしても、プロセスが悪ければ、低い生産性が見えるだけで、それそのものでは何らかの成果を生むわけではありません。
そういう意味ではスマート工場化を目標とするのは間違いだといえます。重要なのは「見た後に何をするのか」というアクションの部分です。アクションを変えるためにスマート工場化を進めるというのが正しいアプローチだといえます。スマート工場化は道具であり、手段です。それを「どう使うのか」という考え方が必要になります。
また、「欧米が進んでいる」という考え方のもと、単純にまねをするだけでも成果は出せません。それぞれの企業、それぞれの工場が持つ課題は異なっており、それぞれの抱える課題やテーマをまず抽出し、それに対するソリューションを取り入れなければならないからです。例えば、実装工程のスループットは高いけれど、その後工程の組み立て工程の生産性が低く、仕掛かり在庫が発生しがちな製造現場で、実装工程でのスマート化を推進するというのは、投資がもったいないような気がします(後工程と合わせることができるため無意味ではないですが)。
前回もスマート工場はスモールスタートで成功例を積み上げる重要性を紹介しましたが、まずは「現在の工場で課題となっていることをスマート工場化によってどうやって解決できるか」ということを考えてみるのが、近道だと考えます。
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