ここまで紹介した自動運転トラクターはかなり高価な製品だ。例えば、ヤンマーが発表したロボットトラクターの価格は1214万5000〜1549万5000円となっている。
無人で運転と作業を行う自動運転トラクターと比べて、有人ではあるもののGPSを用いた自動操舵により運転を自動化してくれるGPSトラクターはもう少し安価な投資で済む。それでも、先述のトリンブルやトプコンなどが展開する後付けのGPSシステムは200万円以上するといわれている。
三菱マヒンドラ農機は、単眼カメラと画像処理ユニット、自社開発のステアリングユニットによりうね立てなどの直進操舵を自動化する「SMARTEYEDRIVE(スマートアイドライブ)」を2017年秋から展開している。カメラで撮影した遠方風景やうねの溝を基準とすることで、±5cmの精度で直進操舵を行えるという。価格は60万円程度で、GPSトラクターシステムよりもかなり安価だ。また、基地局との通信費用などランニングコストも不要である。
同社の展示ブース内では、ベンチャー企業の農業情報設計社が従来比で半額以下というGPSシステムを展示していた。スマートアイドライブのステアリングユニットとGPSアンテナ、GPS自動ECUで構成される。GPSモジュールはu-blox製、3G通信はソラコムを採用するなどして価格を抑えた。「自動操舵はもちろん、無人の自動運転トラクターにも適用できるレベルの精度を実現した。現時点では、麦には十分使えるが、豆は難しいといったところ。課題は性能よりもサポート体制になるだろう」(農業情報設計社の説明員)という。
トラクター以外にもGPSの活用は広がっている。IHIアグリテックは、同社が展開する肥料散布機械のブロードキャスタとGPSを連動させる「GPSナビライナー」を展示した。スマート農業の中でも、ほ場内のばらつきに合わせて肥料散布を行う可変施肥が注目されている。肥料の使用量の削減だけでなく、生育の均一化による倒伏を避ける効果もある。GPSナビライナーでは、GISツールなどであらかじめ制作した施肥マップをUSBメモリから読み込み、それに応じた可変施肥を行える。GPSによる施肥の精度は±50cmで、ほ場内での直線走行、ほ場端での旋回タイミングの誘導なども可能だ。
現行のGPSトラクターのシステムが高価な要因になっているのが、2〜3cmという精度を可能にするRTK-GPSに補正信号を送るために基地局が必要なことだ。従来の衛星だけを使うGPSだとm単位の精度になってしまい、正確なうね立てなどは行えない。
しかし2010年9月から打ち上げが始まった準天頂衛星「みちびき」が、2017年10月に4基そろったことにより、基地局を使わずにGPSの測位精度を2〜3cmまで高めることが可能になった。準天頂衛星を利用可能なGPSが普及すれば、GPSトラクターシステムの低価格化につながる。
準天頂衛星によって自動運転農機も安価になる可能性がある。北海道大学 大学院農学研究院 副研究院長・教授でSIP(戦略的イノベーション創造プログラム) 次世代農林水産業創造技術担当 プログラムディレクターを務める野口伸氏は「防風林などの影響で基地局の補正信号が届きにくいRTK-GPSに対して、準天頂衛星はその問題も起こらない点もメリットだ。ただし、高精度な制御が必要な自動運転農機は、農機の傾きの検知、大舵角旋回時の向きの検知なども必要だ。これらの課題は、安価なセンサーや機械学習ベースのアルゴリズムなどによって解決可能であり、低価格化は着実に進むだろう」と述べている。
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