あの衛星やロケットも? 日本の宇宙開発を支えるOTCのプリント配線板技術メイドインジャパンの現場力(16)(2/3 ページ)

» 2018年07月12日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

JAXA認定の難しさ

 ただ、それは簡単なことではない。JAXA認定の付則は主に材料や構造によって分かれているが、製品としての基準が満たされているかどうかだけではなく、製造プロセスの認定も受けなければならない。さらに使用する設備も全て登録制となっており、これらの付則を満たすような設備なども用意しなければならないからだ。

 宇宙事業に必要な信頼性について西村氏は「宇宙空間で使用を想定すると、地上で使用するものでは必要ないような領域での信頼性や試験が必要になる」と述べる。例えば、宇宙空間では放射線を受け続けることになるので、耐放射線機能が必須となる。また、ガスが発生すると想定外の推力が発生することになるので異常時もガス放出が発生しない構造も必要だ。さらに、メンテナンスができないので長期信頼性も必要となる。そのため、熱衝撃試験なども地上では100〜300サイクルが地上向けの通常レベルだが、宇宙での使用を考えると1000サイクルは必要で、OTCでは1200サイクルの試験を行っているという。

 これらの厳しい試験設備や製造設備などを全て用意し、認定を取得しなければならなかった。さらに事業移管に際し、2018年3月という期限が設けられていた。「日本アビオニクスから引き継ぐ機械などもあったが新たな設備導入なども必要だった。通常は付則1つで認定期間として2年程度を用意する。それを5つの付則の認定を1年半ほどで取得せねばならず、非常に苦労した」と西村氏は振り返る。

 さらに、プレッシャーとなったのが、顧客企業の存在だ。日本アビオニクスの事業移管を受けると付則7項目を全て満たすプリント配線板の生産拠点は国内にOTCのみとなる。移管完了まで製品を待っていた顧客企業もあったとし「日本の宇宙開発事業への責任も感じていた」(西村氏)とする。

 これらを優先順位に合わせて、取得を進め2017年10月の付則Aの取得を皮切りに、最終的に付則Fの認定を2018年3月末ぎりぎりに取得し、全項目の認定取得に成功したという。「実際には多く使われる付則とそうでない付則があるのは事実だが、全て対応できるようにするということが重要だった。1度で通らなかったところもありJAXAの担当者にも10回以上足を運んでもらった。無事に間に合い、顧客を待たせることもなく良かった」と西村氏は述べている。

宇宙事業を支える生産設備、試験設備

 これらのJAXA認定および宇宙開発事業などに対する強みの根幹となっているのがOTCの開発および生産技術力である。もともと顧客のニーズに合わせて技術開発を行ってきた歴史があり、個別対応の新たな製品技術や生産技術の開発に柔軟に対応できる技術力を持っている。

 ポイントになっているのが、めっきや水処理などから一貫生産できる体制と、自動化の推進、試験設備の充実の3つである。

 国内のプリント配線板需要は全体的な景況感からすると、減少傾向が進む中でようやく底打ちをしたというのが現実だ。しかし、高付加価値品に関してはそれほど需要は落ち込んでおらず、プレーヤーがむしろ減ったことにより国内の生産拠点はOTCに限らず逼迫感がある状況だという。ただ、新たに参入するにしても「プリント配線板に必須のめっき工程などは水を多く使用する他、使用する水の廃水処理設備なども大規模なものが必要となり、新たに投資して参入するにはハードルが高い。一貫して生産できる体制を備えているということが強みとなっている」と西村氏は述べる。

photo めっき工程の様子。中央奥で銅板が引き上げられている(クリックで拡大)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.