少し前の部分で、「AUTOSARは決してソフトウェアアーキテクチャだけを決めているのではありません」と書きましたが、この文章のニュアンスにも、実は問題があるかもしれません。「決める」のは誰でしょうか。確かにAUTOSARが決めているのですが、その「AUTOSAR」とは「自分とは関係のない誰か」だとお考えになっておいでではないでしょうか。
また「AUTOSARは使いにくい」というお話はよく耳にしますが、その使いにくい標準を、使いにくいまま使う必要はあるのでしょうか。使いにくい、あるいは、自分のユースケースが考慮されていないのでしたら、標準を変える試みをしてはいかがでしょうか。AUTOSARのPremium Partner (PP)など標準化活動への参加が可能な会員資格をお持ちの企業の方であれば 、その試みは誰にでも可能です。また、筆者が副主査をつとめるJasParのAUTOSAR標準化WGに参加することも可能になります。他のWGメンバーから各種助言を得ながら各種提案を行うことも可能です。
なお、AUTOSARで作成されている標準関連文書は、公開/非公開を合わせて300以上あり、それぞれに文書責任者(document owner)が割り当てられています。さて、日本人のdocument ownerは何人居るとご想像になりますか。
驚かれるかもしれませんが、2018年6月時点で、筆者を含めてたった3人しかいないのです。日本企業が欧州拠点の現地エキスパートを派遣しているケースも少なくありませんが、現地エキスパートと国内拠点が標準化で密接に連携しているという話は全く聞こえてこないという状況です(むしろ逆の話のほうが多く聞こえてくるような……おっと)。
いずれにしても日本は地理面でも活動面でもAUTOSARを策定する欧州から遠く離れており、「誰か別の企業が、使いやすい標準にしてくれたら使えば良い」という、いわばタダ乗りのアプローチは残念ながら全く機能していないのが現実なのです。これまでの活動での経験を振り返ると、標準化活動に少しでも近づく姿勢を見せれば、「使いやすい標準」に近づけることは可能だと強く実感しています。標準化活動には、実現する技術や知識の面で貢献することも可能ですが、標準として成り立たせるためには、使い手の要求/ニーズについての知識も求められるのです。後者で、かつ、単発の提案をするだけでしたら、ハードルは比較的低いと思いますが、いかがでしょうか。
今回は、避けるべきことの代表例として、「AUTOSARが不可避なプロジェクトの経験からその可能性を見限ってしまうこと」「安易な中間ソリューションの採用」と「標準をただ従うものとして捉えること」について、簡単に述べてまいりました。次回は、ここからもう少し掘り下げてみたいと思います。
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