山形県に本社を置くIBUKIは、射出成形金型の設計製造を主力事業としており、従業員数は61人、売上高は「1桁億円」(同社 代表取締役の松本晋一氏)だ。かつて従業員が300人ほどいた時代もあったが、金型需要の減少などもあって一時期は20人まで減少したという。現在は、3期連続で黒字を達成しており、今後の成長に向けて取り組んでいるのがAIの活用だ。
それまで熟練者のノウハウに頼っていた金型の見積もりについて、ブレインモデルの構築によって自動化することに成功した。現在は「AIを活用した自動見積もりシステム」として外販を行っている。
さらに金型の加工不良による不具合未然予測についてもAIを活用。「熟練者のノウハウをはるかに上回る予測適応率96%を達成した。これは極めて驚くべき結果だった」(松本氏)という。見積もりと同様に外販を計画している。
ここまで紹介したように、IoTやAIの活用で先進的な3社だが、自社への導入はどのように進めたのだろうか。
旭鉄工の木村氏は「IoT活用による見える化で、生産ラインの効率が平均で34%、最高で128%向上した。その結果として労務費も5〜6%、年間で1億円削減できた。何より、企業の風土が変わることが大きい。見えるだけで良くなるが、見えなきゃ良くならない」と強調する。
武州工業の林氏は、見え太君の初期導入時に、従業員から「監視されてるみたいでいやだ」と言われ、2台しか使ってもらえなかったエピソードを紹介。しかし、見え太君による改善の成果が出ると、その後1年間で80ラインで使ってもらえるようになった。「『監視』ではなく『見守り』なんだということのアピールは重要かもしれない」(同氏)とした。
IBUKIの松本氏は「心の壁」と「物理の壁」に言及。「トップダウンで『IoTとAIをやれ』では結局のところ失速してしまう。いかにして自分たちでやりたいと思ってもらえるかが重要だ」(同氏)と説明した。また、AI活用については、すぐに効果が出ないことを指摘した。「数カ月学習して初めて効果が出るので。それまで待つ必要がある」(同氏)。
そして3社とも、中小製造業に積極的にIoT活用に取り組んでほしいと声をそろえた。「見え太君を無料のスマホアプリにしたのは、スモールスタートしやすくするため。クラウドの普及でいろんなことはやりやすくなっている。ただし、ITを導入するのは容易だが、人は簡単に変われない。経営側が制度を整理整頓するなどして、やりやすい環境を作る必要がある」(林氏)。「ITやIoTを導入してもそこには人が必要。アナログとデジタルの両輪を経営側がしっかり回さなければならない」(松本氏)。「工場での音声インタフェースの活用は難しいと思っていたが、実際にやってみたところ意外と便利だった。このように、取りあえずやってみるのがいいのではないか」(木村氏)。
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