一般の人が持つ「レベル3の自動運転」のイメージは、部分的な自動運転であるレベル2に比べると「もう少しいろいろなことができてほしい」というものだろう。例えば、自律的な車線変更や合流などがそれだ。
Tesla(テスラ)の「モデルS」などに搭載されているレベル2の自動運転の車線変更は、ドライバーが周囲の安全を確認した上で方向指示器を操作すると、システムがステアリング制御を行うというものだ。伊藤氏は「車線変更や合流を自動運転で行うことを要求した時に、ハードルがぐっと上がる」と語る。
走行するのが自動車のみが走行する専用道路だとしても、車線変更を行うには2車線あるいは3車線ある車線のどこに自車がいるのかを知らなければならない。また、隣に幅3〜4mの空いているスペースがあった場合、そこは自分が走って良い車線なのか、単なるスペースなのかを認識する能力も必要だ。
この他、車線変更した先の車線は対向車が来る車線なのかどうかを見極める能力も求められる。刻々と変化する前方の路面や後続車の状態を把握し、周囲の状況を総合的に判断しながら適切なタイミングで車線変更を行うには非常に高い知性が必要になる。
伊藤氏は「でも、何かできないことがある。だからレベル3なのだろう。できないことがなければ、レベル4や5になるはずだ」と語り、「ここまで賢いシステムができないこととは何なのだろうか」と疑問を呈した。
車線変更や合流など一般のドライバーが日常的に行う基本操作でも、それを自動化しようとすると相当高い知性を持ったシステムが必要になる。しかし、その能力を備えたクルマにもできないことがある。それは何か。伊藤氏は「何ができる何ができないというイメージは、私とエンジニアの皆さんではちょっと違うかもしれません。エンジニアの皆さんの中でも少し違うのかもしれない」と語る。そして、その違いを互いに認識することが大事だと述べた。
伊藤氏は、レベル3とレベル4の本質的な違いについても言及した。レベル3の自動運転では、システムだけで処理できない局面で人間に制御を渡す。レベル4では、人間に制御を渡さずに車両を安全な状態にとどめる。つまり、伊藤氏はレベル3もレベル4も可能なことと不可能なことを判断する点においては、システムが備える知性は同じ程度と考えられると語る。では、レベル3とレベル4の本質的な違いは何か?
伊藤氏は、1つの考え方として、レベル3の本質を「安全を定義できないシステム」とした。この場合の「安全」は、技術的に実現できない場合もあるし、社会的に定義できない場面もある。
例えば、走行中に何らかの状態に陥り、高速道路上で対応が必要な場面になったとする。しかし、自動車の場合はそれぞれの場面においてどんな状況を保つのが安全かは判断が分かれる。停止すれば安全かというと、そうとは限らない。路肩に停止することが必ずしも安全とは断定できない。
伊藤氏は「安全を定義できない。そして、安全な状態に責任をもって持っていくことができないというのが、レベル3のある意味での本質だ。レベル4はその裏返しで安全を定義できるということ」と認識を示した。
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