「人とくるまのテクノロジー展2018」の主催者企画の中から、筑波大学 システム情報系 教授である伊藤誠氏の「自動運転」に関する講演を紹介する。
2018年5月23日〜25日の3日間、パシフィコ横浜で「人とくるまのテクノロジー展2018」が開催された。この展示会の主催者企画の中から、筑波大学 システム情報系 教授である伊藤誠氏の「自動運転」に関する講演を紹介する。
伊藤氏は自動運転に関するシステムのデザインや人的要因の研究に従事している。講演では「レベル3の自動運転:誰が、いつ、どう使う?」という演題で、自動運転のシステム開発の現場で散見される“議論がかみ合わない”現状を紹介。その解決に向けた方向性を示した。
自動車の自動運転技術は、2017年7月にAudi(アウディ)がレベル3の自動運転に対応するフラグシップセダン「A8」を発表して以降、一般からも注目を集める技術となっている。
自動車の自動運転機能は、米国SAE(Society of Automotive Engineers:自動車技術者協議会)が定めたスケールの中で語られることが多い。このスケールは、レベル0の完全手動運転からレベル5の完全自動運転までのステップに分けられる。中間にあたるレベル3は、ドライバーの存在は必須ながら条件付きで自動運転ができる段階となる。
レベル2以下では運転時の責任はドライバーにある。これに対し、レベル3では自動運転機能の動作時には責任がシステムにあるとする。責任の所在が人からシステムに移るという意味で、レベル3の実現は自動運転技術の大きなステップといえる。
日本の自動車メーカーも、自動運転の実現に向けた研究開発を活発に行っており、2020年までに実現を目指していることが多い。「その中で交わされる議論で“かみ合わない”印象を受けることが多い」と語る伊藤氏はその理由の1つとして、SAEの自動運転レベルの区分が曖昧な点を挙げる。
伊藤氏はSAEのレベル3の自動運転に関する概要に触れ、「レベル3ではシステムが制御している間、基本的にドライバーは前を向いていなくても良い。ただし、呼ばれたら人間が対応しなければいけない。これしか定義されていない。そのため解釈の幅は実に広い」と状況を説明した。SAEでは自動運転のレベルにおいて“何ができたらレベル3か”を規定してはいないのだ。
SAEにおけるレベル3では、基本的にドライバーが操作しなくても走行するのだから、システムは自分のいる場所が「ODD(Operational Design Domain:運行設計領域)」の内か外かを認識している必要はある。また、ある程度の先までは障害物の有無を把握する能力が必須となる。
しかし、自動運転車の中には「自分が加害者(加害車)にならないのであれば、後続車に追突されるのはシステムの対応範囲ではないし、追突してくるクルマについて認識する必要はない」と割り切ったモデルが出てくることも考えられる。「これは、レベル3なのだろうか?」(伊藤氏)。
伊藤氏は「何ができたらゴールなのか、はっきりしないことには課題が整理できない」とし、議論の整理が必要な理由を説いた。
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