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次世代AUTOSARに照準、世界トップクラスのOSベンダーへ――イーソルCTO権藤氏特集「Connect 2018」(1/2 ページ)

創業から43年を数える老舗組み込みベンダーのイーソルは、メニーコア/マルチコア対応の次世代製品「eMCOS」の展開を拡大しようとしている。同社 取締役CTO 兼 技術本部長の権藤正樹氏に、eMCOSの開発経緯や、eMCOSをベースにしたAUTOSARへの展開、IoT時代に対応するアジャイル開発への取り組みなどについて聞いた。

» 2018年01月30日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 イーソルは創業から43年を数える老舗組み込みベンダーだ。組み込み機器に用いられるリアルタイムOSを中心に、開発ツールやミドルウェアなどを提供してきた。

 IoT(モノのインターネット)時代を迎えて同社の事業も転換期を迎えている。リアルタイムOS製品として主力の「eT-Kernel」に加えて、メニーコア/マルチコア対応の次世代製品「eMCOS」の展開を拡大しようとしているのだ。そこで同社 取締役CTO 兼 技術本部長の権藤正樹氏に、eMCOSの開発経緯や、eMCOSをベースにしたAUTOSARへの展開、IoT時代に対応するアジャイル開発への取り組みなどについて聞いた。



MONOist 2017年はイーソルにとってどのような年でしたか。

イーソルの権藤正樹氏 イーソルの権藤正樹氏

権藤氏 当社にとって一番大きかったのは、車載ソフトウェアの標準規格であるAUTOSARの関連になるだろう。技術面でも、経営面でも、大きなインパクトがあった。

 2016年4月にAUTOSARのプレミアムパートナーなってから、AUTOSARの次世代規格であるAUTOSAR Adaptive Platform(AP)の仕様策定に加わっている。こういった標準化活動に深く入り込むことは、今まで国内企業はなかなかやれなかったことだ。このことによって社員のモチベーションも高まっている。私個人としても、AUTOSARの活動と関連して週一で欧州に行くようになり、大きな刺激を受けている。

 デンソー、NEC通信システムと共同で2016年5月に設立した、AUTOSARで必要になる車載システムの基盤ソフトウェア(BSW:Basic Software)とその関連ツールを手掛けるオーバスについても、2017年は大きな開発のめどを付ける重要な年になった。イーソルとして、BSWの開発は今までもやってきたが、デンソーという日本のトップサプライヤーと一緒にやることは大きなチャレンジだった。互いの文化の違いを乗り越えることで、当社が学ぶことは極めて多かった。

MONOist AUTOSAR関連では、次世代のリアルタイムOS製品に位置付けるeMCOSが重要な役割を果たしたと聞いています。

権藤氏 メニーコア/マルチコア対応OSであるeMCOSは、2012〜2013年ごろに開発を始めた。2017年は、現在の主力製品であるeT-Kernelに加えて、次世代製品であるeMCOSの需要が立ち上がり始めた年といえるだろう。

 eMCOSが事業として成長の段階に入ることはとてもうれしい。かつてイーソルには、事業部をまたぐ全社組織の研究開発部門はなかった。しかし、今後の長期的視点に立って10年前に私を含めて少人数で研究開発部門を立ち上げた後、国家プロジェクトへの参加によって基礎技術を練り上げたのがeMCOSだ。そういった研究開発部門の成果を事業部にトランスファーするのは、当社としては初の事例になる。創業から40年以上の歴史を重ねる中で初めて回り始めたこのサイクルは、これからのイーソルの基盤になると確信している。

MONOist AUTOSARの活動ではどのような成果が得られていますか。

権藤氏 APに4人いるプロジェクトリーダーの1人として活動を重ねてきたおかげで、AUTOSAR関連でのイーソルの認知度は高まっている。

 2017年10月のことだが、米国EE Timesに、AUTOSARのBSWで高いシェアを持つエレクトロビット(Elektrobit)のバイスプレジデントへのインタビュー記事が掲載された。その中で、AP関連の競合他社の筆頭としてイーソルの名前が挙がっていた。これは、APにおけるイーソルの活動が認められている証拠ではないか。20年前、当時所属していたイーソルのエンベデッドプロダクト事業部は「世界でトップクラスのOSベンダーになる」ことを目指していた、そのためには、世界のエンジニアに知られている必要があるわけだが、その土俵に手を掛けつつあるのではないかと感じている。

MONOist APの開発に食い込めたのはなぜですか。

権藤氏 2013〜2014年にかけてAPの必要性が議論されたが、その時は結論が出なかった。しかし2016年に再度必要性が認識され、そこでアジャイル開発を基にしたAPの開発が始まろうとしていたタイミングで参加できた。この時点で、APへの要件はあったがアーキテクチャは見えてない段階。従来のAUTOSARの組織で開発を進めてきた現行のAUTOSARと比べて、高度運転支援や自動運転に対応しなければならないAPは新しい要素が多い。求められていた新しい要素に対して、イーソルの研究開発部門で10年間積み重ねてきたメニーコア/マルチコア技術をはじめとする知見を生かせた。

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