前回、「MECE」の重要性をお話ししました。それも、「MECE」を侮るとイノベーションを生み出せない、というくらいの勢いで。しかし、実戦では「MECE」を崩しても構いません。具体的に説明すると、多少のモレは目をつむってOKです。ダブりは論理的構造を損ねるので防ぐ必要がありますが、解決策の幅が限りなく存在する以上、モレは仕方ないのです。逆に言うと、ビジネスの可能性は無限にある、ということです。
前述のツリーも、3つの切り口が絶対的に全ての解決策を網羅できるかといったら、そうでないかもしれません。しかし、それら3つの切り口で発想を広げていけば、70パーセント程度は掲げているテーマをカバーできそうです。実戦ではスピードと柔軟性が求められます。ルールに縛られすぎず、しかし有用なアウトプットを生み出していくことを意識しましょう。
テーマを構造分解する例をいくつも出してきましたが、ほとんどが3つに分解されていることにお気付きでしょうか。これは全て意識的に行っています。人間の脳は3つに分けるくらいが一番理解しやすかったり覚えやすかったりする、というのは有名な話ですが、それ以外にも理由があります。
何かを分解するとき、「Yes or No」「A or NOT A」としてしまう例が非常に多くあります。「物質的 or 非物質的」「外見 or 内面」など。このような切り口からスタートしてしまうと分解しきれなかったり、そもそも解決策ありきで思考を発散させてしまったりして、発想を狭めかねません。3つの切り口を意識することで強制的に二律背反から逃れることができます。そして、3つに分けようとする、それが「ひらめき」につながるのです。
自身の思考のクセの中にとどまり、ひらめきに気付けない多くの理由は、「本当はあるモレに気付けない」ことにあると言っても過言ではありません。本当は広げられるのに、その存在に気付かない。そこで登場するのが「悪魔」です。
「悪魔のささやき」=「Devil's Advocate(悪魔の提唱)」。「本当にそれでいいの?」と自身の考えを真っ向から疑うことです。
こんな例を見てみましょう。
一見、MECEの考え方に基づいたツリーになっていて、思考にモレは無さそうに思えます。しかし、自分の中の悪魔に問い詰めさせましょう。「筋肉ムキムキで、走る技術をカンペキにマスターしていて、最高の道具を持っていれば、本当にマラソンの順位は上がるのか? お前、本気で言ってるのか?」と自分自身を突きまくりましょう。
「そもそもけがしてたらどうすんの? ていうか、その方法でどの大会に出ても順位上がるの?」……。自分が辛くなる一歩手前まで追い詰めましょう。
すると、「そうか、体調も重要なファクトだな……。マラソンにはどうやって走るかの戦略も大事だし、自分に合った大会を選ぶというのも大切だ」。そうすると、上記の図の中間に、もう1つのレイヤーが生まれることに気付きます。
われわれはこれを「中間概念」と呼んでいます。
中間概念に気付き、それと同レイヤーの別要素を見つけると、それこそ水中から顔を出したような視野の広がりを感じることができます。こうしていくつもの中間概念を発見しながら、テーマから解決策の間をいかに細かく刻んでいくかが、有用なツリーを作る、いや、発想を広げ、新しい価値を生み出していくための非常に大切なポイントです。
今回は非常に大切なコツをお伝えしました。ぜひひとつひとつを意識して、日頃から実践してみてください。次回は上記を行うための“テクニック”をお伝えします。
通信機器、情報機器メーカーより株式会社VSNに転職。VSNに入社後はエレクトロニクスエンジニアとして半導体のデジタル回路設計やカメラ用SDK開発業務に携わる。
2013年より“派遣エンジニアがお客さまの問題を発見し、解決する”サービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下、VI)」を推進するメンバー「バリューチェーン・イノベーター・プロフェッショナル」に抜擢。ビジネス・ブレークスルー大学・大学院の教授である斎藤顕一氏より問題解決手法の教示を受け、いくつもの問題解決事案に携わる。
現在はVIエキスパートとして、よりハイレベルなサービスの提供に向けての提案活動を牽引する他、社員の育成プログラムの構築〜実施を行う。
株式会社VSN http://www.vsn.co.jp/
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