ドイツは国内産業およびGDP(国民総生産)の中で、製造業の比率が高く「製造立国」であるといえます。しかし、製造現場の置かれている立場は最終製品に求められる嗜好の変化に合わせて、ここ10〜20年で大きく変化してきました。「危機感」の中身にはどういうことがあるのでしょうか。
ドイツが持つ危機感とは、一体何に対するものですか?
そうね。「下からの突き上げ」と「上からのプレッシャー」の両面にドイツははさまれていたといえるかもしれないわね。
スマートフォンの動向などを見ても分かる通り、最終製品のライフサイクルのスピードが急速に高まる中、生産現場には「変種変量生産」が求められるようになっています。製品がより多様に変動する場合、大規模な生産設備による固定化したラインは生産現場の負担になります。そこで機械による自動化が難しくなり、新興国などでの安い人件費を活用した「人手によるセル生産」でこれらに対応する流れとなりました。
こうした場合、生産現場の重要な指標が「人件費」になります。しかし、ドイツも日本と同様に国内の人件費は新興国よりは高く、この「人手によるセル生産」では、ドイツ国内の生産現場は厳しい立場に追いやられることになります。これが「下からの突き上げ」になります。
では次は「上からのプレッシャー」について見ていきましょう。
多様で変化の激しい消費者のニーズが製造現場に「変種変量生産」の必要性を招き、さらにそれが「人手によるセル生産」を求め、人件費で優位性を持つ新興国での生産を生みだしたという流れが「下からの突き上げ」だとすると、「上からのプレッシャー」とは一体何でしょうか。
新興国の脅威が「下からの突き上げ」だとすると、「上からのプレッシャー」は何なのでしょうか。
それはズバリ、米国のIT企業だといえるわね。特にITの処理能力を生かして現実世界に影響を及ぼそうとしているGoogleなどの取り組みには大きな脅威を感じたといえるわ。
GoogleやAmazonなど、米国の先進IT企業はインターネットやクラウドの世界に次々と革新をもたらし、人々に新たな価値をもたらしました。彼らは非常にシンプルにこれらの世界で培った技術を生かすことで現実世界をより良いものにすることができる、と信じ、物理的な世界に打って出ようとしています。一昔前にはインターネットやITの世界は画面の中だけの話でした。それが、Googleの自動運転車やAmazonのドローン配達など、画面の外に次々に飛び出してきており、それが新たな価値をもたらしているのです。また、Tesla Motorsのようにシリコンバレーのロジックに乗った製造業なども生まれてきています。
現在はもはや、さまざまな革新がITなしに起こることはありえない状況です。そうした時に先進の技術力を持った米国IT企業が次々と製造業の領域にも踏み込もうとしている。「今までの自分たちの地位を保つことができるのか」という強烈な危機感が生まれても不思議ではありません。これが「上からのプレッシャー」だといえます。
こうした状況ですが、何もドイツに限った話ではありません。
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