日立製作所と本田技術研究所は、マウスピースなしで利用可能なポータブル呼気アルコール検知器を開発/試作した。息を吹きかけると約3秒で呼気中のアルコール濃度を高精度に計測できる。スマートキーへの組み込みが可能で、規定以上のアルコール濃度を検知した場合にエンジンを強制的に作動させないシステムを構築することもできる。
日立製作所と本田技術研究所は2016年3月24日、マウスピースなしで利用可能なポータブル呼気アルコール検知器を開発/試作したと発表した。この検知器に対して息を吹きかけると約3秒で呼気中のアルコール濃度を高精度に計測できる。センサーの小型化と消費電力の低減によってスマートキーへの組み込みが可能であり、規定以上のアルコール濃度を検知した場合にエンジンを強制的に作動させないシステムを構築することもできる。今後は両社で実証実験を行いながら実用化を目指す。実用化時期は明らかにしていない。
酒気帯び運転の防止に役立つアルコール検知器の採用を拡大するには2つの課題がある。1つは、米国などで検討されているアルコール検知器と自動車のエンジンを連動させた「アルコールインターロック」に用いられる大型のアルコール検知器が、車内に設置しドライバーが運転席で検査を実施するシステムであることだ。このため乗車前の計測が行えない。もう1つは、乗車前の計測に利用できるポータブル呼気アルコール検知器の課題だ。現行のポータブル呼気アルコール検知器では、計測する対象が人間の呼気であることとアルコールの検知を同時に行えない。つまり、呼気以外のガスを用いた不正が可能なのだ。
そこで両社は、人間の呼気を認識できるポータブル呼気アルコール検知器の開発に取り組んだ。
今回の開発は2つのセンサー技術によって実現した。1つは小型省電力の飽和水蒸気センサー技術である。両社は、酸化物絶縁体を電極で挟んだセンサー上に呼気を吹きかけると、呼気中の水蒸気が絶縁体に吸着して、電極間を流れる電気特性が変化する現象を見いだした。この現象を利用すれば、人間の呼気特有の飽和水蒸気を検知し、計測する対象の呼気が人間のものであることを認識できる。
そして、この電極の形状を微細なクシ形にして長くし、さらに電極間の距離を狭くすることでセンサー感度を向上。面積を約5mm角に小型化したセンサーでも極微量の飽和水蒸気を検出できるようになった。
もう1つは、エタノール濃度を高精度に計測するセンサー技術だ。エタノールに加えて、飲酒時に呼気中に代謝されるアセトアルデヒド、水素の3種類を検知する半導体ガスセンサーを用いてエタノール濃度を算出している。これにより、エタノールセンサーだけを使って計測する場合と比べ、エタノールの定量精度は約3倍に向上したという。国内法規で酒気帯び状態と認識される0.1mg/l(リットル)の濃度に対し、その10分の1程度の精度まで計測できることを確認している。
これら両技術を用いたポータブル呼気アルコール検知器にスマートキーの機能を持たせることによりアルコールインターロックも実現できるとする。この検知器を運転席に近づけると、計測結果に応じてエンジン作動の可否がディスプレイ上に表示するシステムを構築。規定以上のアルコール濃度を検知した場合にはエンジンを作動させないことも可能だ。
なお両社は、米国デトロイトで2016年4月12〜14日に開催される「SAE 2016 World Congress and Exhibition」で成果を発表する予定であり。
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