Nokia(ノキア)は、5Gのユースケースとしての自動運転車をブース内でアピールしていた。
特に5Gとモバイルエッジコンピューティングを用いた自動運転への取り組みとして、1台のクルマが障害を検知して止まった時に他のクルマにどのような影響を及ぼすか、というデモを模型の車両を用いて行っていた。その際に比較として、4Gで情報を送った場合と5Gで送った場合ではどれくらい伝送速度が異なるのか、それによりクルマの反応がどのように変わるのか、という例も見せていた。
ノキア幹部にインタビューしたところ、5Gは4G/LTEよりもレイテンシ(遅延時間)が短く、自動運転に適しているとしている。ただし、最終的な判断はクルマに限りなく近いところで行うべきとしてモバイルエッジコンピューティング技術の導入を提唱している。つまり、わざわざすべての情報をクラウドまで上げるのではなく、リアルタイム性を要する判断についてはデバイスに近いところで判断することで、各クルマに瞬時に情報を伝達することが可能だとしている。
ノキアのように、クルマ関連ソリューションを展示する企業が複数見られたが、クルマが登場したのはブースだけではない。展示と並行して行われているキーパーソンによるセッションや上述のような基調講演においても5Gのユースケースとして自動運転車が取り上げられる場面が多くみられた。
その中で、とあるセッションにおいて今回のMWC2016を象徴するようなやりとりがあった。Porsche(ポルシェ)と、先日Cisco Systems(シスコ)に買収されたJasper Technologiesが登壇したセッションだ。モデレータが「今回のMWCでは5Gのユースケースとして自動運転車が挙げられているがそれに対してどう思うか」という質問に対し、両社とも「5Gは不要。4G/LTEで十分だ」と答えたのである。
現状開発が進んでいる自動運転車やコネクテッドカーについては、5Gを利用しなくても既に実現できているものもの多く、また人命が関わることからクリティカルな判断は通信やクラウドに頼らずデバイス(クルマ)側で実現しなければならないというのが彼らの考えだ。MWC2016で「5Gのユースケースはクルマ」と散々語られてきた中でのこのやりとりは、5Gの明確なアプリケーションがまだなく、むしろ「5G」自体がバズワード化している印象を受けた。
5Gが商用化されるのは2020年ごろだとみられている。それまでに5Gの自動運転業界における存在価値を高めることができるのか。2017年のMWCでは万人が納得のいく5Gのユースケースが語られるのか、そしてそれは自動運転車なのかどうか。次回のモバイルの祭典に期待したいところだ。
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.