データを点としてではなく面としてディスクに書き込むホログラムメモリ。従来の光ディスクでは限界とされていた1TBを超え、DVDの約400倍となる2TBを実用的な速度で利用できる技術が開発検証されました。
気になる最新キーワードをコンパクトに解説するこのコーナー、今回のテーマは5インチディスクなら2TBのデータを記録できる「超大容量ホログラムメモリ」です。データをディスク上の「点」に書きこむのが従来の光ディスクなら、ホログラムメモリはQRコードのように面的にページ単位で書き込みます。
レーザー光の角度を変えることでディスクの同一箇所に複数ページを書き込めるため、大容量化が期待できます。このたび、従来の光ディスク方式では限界と考えられている1TBを超えて2TB(DVDの約400倍)の超大容量ディスクで実用レベルの高速転送が可能な技術が世界で初めて開発・実証されました。ゆくゆくはその10〜100倍以上の大容量データをディスク1枚に記録できるようになるかもしれません。
2つの方向から来る光の干渉でできる「干渉縞」の明暗パターンを感光材に記録したものが「ホログラム」。ホログラムを作るための技術を「ホログラフィ」と言う。ホログラフィでは光の強度や波長だけでなく位相も含めて記録できるため、画像に応用すれば3次元(立体)画像を感光材上に描ける。ホログラム画像の例は、クレジットカードやお札、有価証券、製品の偽造防止用ステッカーなどさまざまな場面で見ることができる。
この技術をデジタルデータの記録に応用したのが「ホログラムメモリ」だ。その研究の最新成果として、5インチディスク全面に2TBもの大容量データを記録したうえ、実用レベルの転送速度、安定性、媒体の互換性も実現できることが、2015年11月、世界で初めて実証された(東京理科大学基礎工学部の山本学教授、三菱化学株式会社、特定非営利活動法人ナノフォトニクス工学推進機構、大日本印刷株式会社による共同開発)。
新発明の「3次元クロスシフト多重方式」と呼ばれる記録方式を採用することにより、従来の光学系技術と簡易なディスクの回転・傾斜機構での読み書きを可能にした。2TBレベルのディスクは2020年頃までに実用可能になり、高密度記録技術を磨けば2030年頃には10〜20TBに容量拡大が可能といい、さらに媒体技術の進歩も見込めば数百TBレベルの記録も可能になるかもしれない。
現在の光ディスク技術規格の最先端はArchival Disc規格だが、そのロードマップ上の最大容量とされている1TB(両面記録の場合)をはるかに超える大容量ディスクの実現が眼前に迫ってきているのだ(関連記事:1枚300GBの大容量実現、1枚1TBを目指す「Archival Disc」とは何か)。
従来のDVDやBlu-ray Discと決定的に違うのはその記録方式だ。従来技術では、データのビットはディスクの記録面にレーザー光を絞って当てて相変化した微細な領域(ピット)をトラック上に形成し、読み取り時にはピットの有無をレーザー光の反射を検出して再現する(図2 左)。そのため記録面の大容量化を図るには、ピットをより微細にするか、トラック幅を狭くするしかない。これまでに波長の短い青色レーザーの利用やトラック幅の微小化が行われてきており、さらに記録面を複数にする(多層化)技術も開発されてきた(過去記事参照)。
しかし既にレーザーのスポット径微細化や多層化は限界に近づいており、今後のデータセンターなどに要求される大容量データのニアラインでの長期保管ニーズに応えるには、全く異なるデータ記録方式が必要と考えられている。その最有力候補がホログラムメモリだ。
その記録方式は、図2 右に見るように1つの記録領域に信号光と参照光とを違う角度から照射し、その干渉によるパターンによって記録面のフォトポリマーに相変化を起こさせるというものだ。読み取り時には、参照光と同様にレーザーを照射し、その反射をイメージセンサーで感知する。
1つの2次元データは「ページ」と呼ばれ、1ページは約1Mビット、記録サイズは0.5mm直径の円になる。この単位で読み書き可能なことが1つの特長だが、この技術の最大の利点は、同一の記録領域に別のページを重ねて記録(多重化)できることだ。
山本教授は、参照光が媒体上に球面状に広がって照射される(球面参照光)ことから、ページの記録位置を10μmだけずらせば、隣のページが読み込めなくなることを発見した。つまり、図3に見るように、10μmだけ位置をずらして記録すれば、読み出し時には別々のページとして読むことができるわけだ(シフト多重記録)。0.5mm幅で5.5cmの長さの中に5500個のページが記録できることになる。
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