例えば、打ち合わせの席で矢面氏から以下の依頼があった場合はどうでしょう。
大江戸モーターさんで開発した今回の小型モーターは本当に素晴らしいです。内部構造を見せていただけませんか?
内部構造のコンセプト自体は既に特許出願済み※)なので、内部構造を見せてもよいと江戸氏が判断するかもしれません。しかし、大江戸モーターとしては、開示する内部構造に関する情報を、少なくとも特許出願が公開されるまでは秘密にしておいてほしい、と考えるでしょう。また、NDAの目的(今回のケースでは「協業の実現可能性の検討目的」)の範囲内での使用(利用)に限定してほしいと考えるのが当然です。
※)最初の打ち合わせまでに特許出願を済ませておく必要性については連載の第2回「NDAを結ぶ前に『特許出願』を行うべき3つの理由」を参照していただければと思います
しかしながら、上記定義規定だと、秘密情報は、以下の2つのいずれかに限定されています。
つまり、秘密情報の対象が、書面での情報開示と口頭での情報開示に限定されているわけです。
しかし、打ち合わせの席で、小型モーターの内部構造を矢面氏に見てもらうという状況は、「書面による情報の開示」又は「口頭による情報の開示」のいずれにもあたりません。もちろん、内部構造を見てもらう際の口頭説明は「口頭による情報の開示」にあたり、開示から15日以内の書面送付などの手続を得ることで「秘密情報」となる可能性はありますが、矢面氏が「目で見て」知得した小型モーターの内部構造に関する情報を「秘密情報」というのは難しいかもしれません。
これは私が目で見て得た情報ですから、自由に公開させてもらいます。「書面」でも「口頭」でもありませんので「秘密情報」ではないですよ。
では、江戸氏はどうしたらよいでしょうか。
答えは「開示する小型モーターの内部構造」が「秘密情報」に含まれるように「秘密情報」の定義を修正することです。例えば、上記秘密情報の定義規定の最後に以下のような一文(太字参照)を加筆するという対応が考えられます(この対応が修正として一番簡単かと思います)。
「『秘密情報』とは、本目的のために甲又は乙が相手方に開示する技術上、営業上の情報であって、書面にて情報が開示される場合は、その書面上に秘密である旨の表示がされた情報をいい、口頭にて情報が開示される場合は、開示の際に開示される情報が秘密である旨が示され、開示以降15日以内にその内容を書面化して情報の受領者に当該書面が提供された情報をいう。ただし、甲が、乙に対して開示する有体物に関する情報は、秘密情報に含まれるものとする」
なお、ここでは「小型モーターの内部構造に関する情報」を「有体物に関する情報」と上位概念で表現しています。
もっとも、秘密情報の定義を上記のように修正した場合でも、打ち合わせの席で「小型モーターの内部構造」として何を見せたのか特定しておいた方が、後々「見た・見ない」の論争を避けられると思います(秘密情報の特定の必要性)。そこで、NDAの契約書の内容をどのように修正するかの話とは別に、大江戸モーターとしては、CFGモーターズとの打ち合わせの議事録を作成し、打ち合わせの席で矢面氏に見せた小型モーターの内部構造を特定した上で、この議事録を矢面氏に送付しておくことが賢明だと考えます。
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