ソニー引退直前も、同社で若手指導にあたっていた阿部氏。その幅広い知識は「泥臭いモノづくり」を経験したからこそ得られたという。
「例えば、部品を選ぶときは必ず『作っている工場を見に行け。分からないことは全部聞いてこい』と教えられました。ケーブル1つに対してもそう。それで、実際工場に足を運んでいると“ケーブル屋がよくやるヘマ”などが肌で理解できるようになるんです。こうした素地があると、良いモノ悪いモノを見分けるコツが分かる。『泥臭い』経験に即したノウハウの蓄積は、日本の製造業を支えている支柱でもあると考えています」
もちろん、ベンチャー企業にケーブル1本買うために工場へ出向くような余裕はない。だからこそ「この経験が少しでも支えになり、若手にもノウハウを伝授できれば」(阿部氏)。入居中の企業からは、製作ステップの中で「品質の検証はどうしたらいいか」「電源は充電式と乾電池、どう選択したらいいか」などさまざまな質問が寄せられる。DMM.make AKIBAに入居するベンチャー企業を支えているのは機材や人脈だけではなく、先人の知恵と経験でもある。
阿部氏いわく、昔も今も、モノづくりに携わる人の“熱意”に変化は無いと感じているという。
「長い歴史を経てようやく世界に誇れる品質でモノを生産できるようになったのに、衰退してはもったいない。大げさにいえば、モノづくりは国の底力です。若い方は経験者から効率よくノウハウを吸収して、モノづくりの復権に役立ててほしいと思います」
そんな志を持つ阿部氏にとって、DMM.make AKIBAの技術顧問という立場は「まさに理想だ」と話す。「あと、若い人に混じってモノづくりをすることが単純に楽しいんです(笑)」
技術顧問としてのサポートのほか、一般・会員向けのワークショップの企画、指導も行っている。「真空管ヘッドフォンアンプを作るワークショップが人気で、私が企画したものです。こうしたイベントを通して、モノづくりに対する理解向上のお役に立てれば、と考えています」
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