アイシン精機は2015年1月に新たにイノベーションセンターを設置し、既存の事業領域にとらわれない新たな事業の柱を生み出す取り組みを強化する方針を示す。なぜ、アイシン精機は新たな事業を創出しなければならないのか。その第一弾プロトタイプ発表の会場で、同社イノベーションセンター長で常務役員の江口勝彦氏に話を聞いた。
2015年3月17日、アイシン精機と千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)は4つの形態に変形するパーソナルモビリティ「ILY-A」の開発を発表した。このパーソナルモビリティの詳細については「ロボット技術応用、4つのモードに変形する近未来の足」で詳しく紹介しているが、本稿ではこの新たなパーソナルモビリティ開発の母体となったアイシン精機のイノベーションセンターの狙いと活動について取り上げるとともに、イノベーションセンター長を務める江口勝彦氏の話をお伝えする。
アイシン精機がイノベーションセンターを新組織として設置したのは2015年1月のことだ。従来の事業本部から独立し会長・社長直轄の組織として設置された。「アイシングループの既存事業にとらわれない第3、第4の柱となる商品・事業を創出」することをミッションとし、ユーザー視点による市場創造型の商品や事業を作り出していくことを目的としている。
現在のグループは100人規模で各事業本部からポイントになる人員を集めたとしているが、母体となったのは新規事業として取り組んできた「イムラ・レーザ」の部隊で、約半分が同部門からの移管だという。イムラ・レーザは断続的に光を出すパルスレーザーの中で、パルスの時間幅がフェムト秒(フェムトは10の15乗分の1)領域のパルスを出すレーザーのこと。透明な物体の内部だけを加工するなど、これまでできなかったさまざまな加工が可能で、通信をはじめ、微細加工、計測、理化学、医療などの分野で利用が期待されている。
アイシン精機の既存の事業領域にとらわれないということから、同センターが事業化に向けて対象としている範囲は非常に広く、パーソナルモビリティに象徴される「移動」に関するものの他、「環境」や「福祉」「健康」「メディカル」「住生活」「IT」「高齢化」など数多くの領域でのニーズの掘り起こしを進めているという。
実際の取り組みとしては「オープンイノベーション」の手法を取る。「ユーザー」を起点としてニーズの掘り起こしを進めつつ、企画初期段階から社外からの力を募り、社内外のリソースを組み合わせながら事業化の可能性を探っていく形だ。社内で調査を進めながら完成形だけを市場に問うのではなく、初期プロトタイプの段階から世に問い、ユーザーニーズとの合致を検証しながら、製品化および事業化を目指していく。
今回発表したパーソナルモビリティ「ILY-A」は同センターにおいて初めて世に出したモノ。初期から千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターに協力を求めて完成した。ただし、まだ初期プロトタイプの段階で製品化に向けては「さらにいくつかのプロトタイプを世に問う必要がある。まずはどういうユーザーがどういうニーズを持っているのか、いくつかの型を作りそれを当てて本当にそこに市場があるのかを見ていくつもりだ」と江口氏は語る。最終的には5年後の事業化を目指すとしている。
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