Googleの計画するモジュール式スマートフォン「Project Ara」は利用者にカスタマイズ性を提供するだけではなく、多くの人へスマートフォンへの参加を促す。Project Araが開拓しようとしている「モノづくりの未来像」について、早稲田大学大学院教授の丸山氏が語った。
Googleが計画しているモジュール式スマートフォンが「Project Ara」だ。“モジュール式”の名前の通り、機能ごとに基板をブロック化、必要なモジュールを選択することで、好みに合ったスマートフォンを作ることができる。
大容量のバッテリーが欲しければバッテリーモジュールを複数装着することもあるだろうし、より高性能なカメラモジュールが登場したら交換することもあるだろう。Project Araはこのようなカスタマイズの自由度を利用者に提供するだけではなく、モジュールの作り手というカタチで、新たな「スマートフォンへの参加者」を作り出すことにも大きな意味がある。
2015年1月にはProject Araの開発者向けイベント「The Project Ara Module Developers Conference」も開催され、ここでは2015年内の試験販売もアナウンスされるなど、実機投入に向けての動きが加速している。Project Araに深い関心を寄せ、合同勉強会なども開催している、早稲田大学大学院客員教授の丸山不二夫氏が「Project Araとものづくりの未来」と題した講演にて、Project Araが開拓しようとしている、モノづくりの未来像について語った。
現在のスマートフォンには高性能なSoC(System-On-Chip)が複数搭載されており、複数搭載による機能分離はセキュリティと並列性を高め、機能ごとの電力管理も容易なものとしている。しかし、1チップへの集積が進めば進むほどハードとソフト、双方の開発は難しくなり、相当規模の開発力と生産力がなければ独自色を出すことは難しくなっている。
丸山氏は機能のモジュール化という手法を採用するProject Araについて、「SoCを外部へ分解する」という表現を用い、「多くのプレーヤーの、モバイルハードウェア作りへの参入を容易とし、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のような新技術を迅速に反映することができる」とその狙いを説明する。
翻訳モジュールや臭い・味覚のセンサーモジュール、超音波ソナーモジュール、GPUの処理能力を活用したディープラーニングモジュール、FPGAを使用したプログラマブルな万能(汎用)モジュールなど、丸山氏のモジュールに対するアイデアは豊富だ。モジュールはハードウェアなのでソフトウェアに比べれば製造は困難だが、スマホそのものを作り出すよりは容易であり、アイデアとちょっとした製造能力、つまり、モノづくりの力があれば、大きなイノベーションの一翼を担うことも不可能ではない。
モノづくりという観点で丸山氏は、米国防総省高等研究計画局(DARPA)の軍用車デザインコンテストで民間企業が優勝した事例や、米オークリッジ国立研究所が3Dプリンタで乗用車の外装を作成した事例などを挙げ、クルマの世界では既に起こっている「ものづくりの民主化」も紹介した。
これらの事例はクルマという大掛かりな機械の製造ですら、既に大企業だけのものではなく、新たな素材の利用や精密加工技術の進歩、コンピューティング能力の増大により、身近なものとなりりつあることを示している。このようなIT技術とモノづくり力の結合、サイバーな世界の技術とフィジカルな世界の技術こそがこれから求められ、Project Araはその一例になり得ると丸山氏は述べる。
ハードウェア制作のハードルは確かに高い。しかし、Makersムーブメントやオープンハードウェアへの取り組みは着実に広がっており、丸山氏も「ものづくりの民主化」とい言葉を用いながら、「いろいろな課題があり、簡単ではない。しかし、それは可能だ」とその可能性の高まりを指摘した。
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