今大会のマイクロマウスクラシック競技エキスパートクラスには、地区大会でシード権を得たロボットも含め72台が出場した。優勝したのは、宇都宮正和さんが製作した「紫電改」。記録は6秒574で、2位に0.6秒以上の差をつけ、圧倒的な速さで新チャンピオンとなった。
紫電改は、吸引機構を搭載したマイクロマウスだ。吸引式マイクロマウスのアイデアは10年以上前からあった。マイクロマウス競技に限らず、スピードを競うロボットコンテストでは吸引機構によってタイヤの摩擦係数を増やし、最大加速度と最大旋回速度を上げるのはよくある手法だ。筆者がマイクロマウス競技会の観戦を始めた2004年にも吸引式マウスが大会に出場していた。
しかしその頃、通称“板マウス”と呼ばれるプリント基板に直接モーターとタイヤを搭載したマイクロマウスが登場。重心を下げ、小型軽量化した板マウスが上位を占めるようになり、エキスパートクラスの主流となった。
ただでさえ機体が小さいマイクロマウスに吸引機構を搭載するのは難しい。板マウスとなればなおさらだ。その中で吸引式マイクロマウスの開発を続ける人もおり、地区大会の成績から「今回は吸引式マイクロマウスが優勝するか?!」と期待されたこともあった。
しかし、吸引機構は走行面の状況に大きな影響を受ける。宇都宮さんは、吸引機構搭載マイクロマウスの開発を2011年から始めた。2013年も2012年大会も地区大会で圧倒的な速さを見せたが、全日本大会の長く複雑な迷路を攻略できずにいた。
「吸引によって生まれる負圧が安定せず、制御の調整に苦労した」そうだ。調整可能なパラメータは100項目以上あり、3年かけてありとあらゆる状況をシミュレーションしながら作り込んできたという。
今大会で決勝に進出した31台中、全5回の走行を完走できたのは紫電改ともう1台だけだった。難易度の高い迷路を走るために、ハード・ソフトともに改良を重ね続けたことが宇都宮さんの優勝につながっている。
それでは、優勝した紫電改の最速走行を見てみよう。速過ぎるので、ゴール後にスローモーションで再生し決勝迷路のポイントを音声で解説した。
このスピード感は、マイクロマウス競技の最大の魅力だ。しかしながら、マイクロマウス競技は、ロボットが自立で迷路を解析するところにも面白さがある。探索する時のマイクロマウスの動きを見て「賢いなぁ」と感嘆するようになると、がぜん、観戦が楽しくなる。探索走行も見てほしい。
今大会には、2位入賞の「ハセシュマウス ver.3.0」(製作者:長谷川 峻さん/東京理科大学 Mice)他、計4台の吸引式マイクロマウスが決勝に進出していた。前回、前々回の大会で紫電改の走りを見た影響だろう。これからは吸引式マイクロマウスがマイクロマウス大会をけん引していくかもしれない。
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