ファンやコンプレッサなどのターボ機械は設計要求が高く形状やノウハウの数値化も難しいとされる。これらの課題を解決するターボ機械専用の流体設計統合システム「TURBOdesign」を開発するADT社のMehrdad Zangeneh博士に、キーテクノロジの3次元逆解法や最新の開発方針について聞いた。
「TURBOdesign」は英Advanced Design Technology社(以下、ADT社)が開発した、ターボ機械向け流体設計統合システムだ。英ロンドン大学と荏原総合研究所(当時)によって開発され、遠心、斜流、軸流など、また流体も圧縮性および非圧縮性、気体、液体と幅広く扱えるのが特徴だ。羽根の状態も回転系、静止系の状態に対応する。現時点の最新バージョンは、「TURBOdesign Suite 5.2.3」。日本総代理店はヴァイナス。
TURBOdesignは、以下の6つのモジュールを用いることで、ターボ機械設計一連のプロセスを1つのシステム内で進めることが可能だという。
TURBOdesign が採用する「3次元逆解法」は、ADT社のManaging Directorで英ロンドン大学教授のMehrdad Zangeneh博士によって提唱された。3次元逆解法は、従来の「設計の後に解析」という流れとは逆の方向に解析する手法だ。通常は形状を決定した後にCFDを実行し、性能を求める。3次元逆解法では、羽根周りの流れ場の情報を規定、すなわち翼負荷分布を与えて、その流れ場を実現するような羽根の形状を計算によって求める。
3次元逆解法では、流体的な特性をダイレクトに設計パラメータと結び付けているので、「どのパラメータを変えれば性能がよくなるか」がすぐ分かり、検討が効率的に行えるという。数値化が可能になることで、設計ノウハウの伝承にも役立てられるとのことだ。
「通常は形状のパラメータを変化させながら性能のよいパラメータを見いだしていくが、それでは形状のパラメータと性能との相関関係を見いだすことは難しい」とZangeneh氏は言う。「また設計空間が限られているということは、検討範囲も限られているということだ。実際にはある流量範囲で性能を実現しなければならなかったり、寿命を延ばすために構造強度もきちんと検討したりする必要があるなど、さまざまな設計要求があるため、従来のように“勘と経験”に基づいて設計パラメータを見出していくのは難しい」(Zangeneh氏)。
ターボチャージャは特に自動車の排ガス低減のために導入が進みつつあるという。ターボチャージャを設計・製造する英CumminsTurbo Technologies社は、TURBOdesignをガソリンエンジン向けターボチャージャに適用した。従来の設計方法で10年間性能が変わらなかったが、TURBOdesignで共同で検討を始めたところ、2〜3年で性能向上の目標を達成できたという。「逆解法の手法によって2.5〜3%性能が向上し、開発のブレークスルーにつながった」(Zangeneh氏)。
もっと3次元的で複雑な形状にすることで流体的な性能を向上させ、同時に構造強度も考慮して設計できたということだ。
2014年7月リリースの現行バージョンでは、特にターボチャージャ向け機能が強化されている。「TURBOdesign Pre」では新たに半径流タービンの設計モジュールを搭載し、ターボチャージャのタービン側の子午面設計が可能だ。「TURBOdesign Volute」では圧縮性を考慮した設計に対応し、非対称型の流路断面形状に対応した。「TURBOdesign1」では、Script版における子午面形状のパラメータ指定法法の寸法規定を行うモードでのバリエーションが1種類から11種類に増えた。
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