「リスクの発見」の次がこのステップです。「エクスポージャ分析」と書くと、「ラプラス変換」や「シュレジンガー方程式」みたいにおどろおどろしく聞こえますが、「リスクが起きた時の対策手順」「対策に要するコスト」「リスクが起きる確率」「リスク対処のための予想金額」を求めることです。
リスク一覧に書いたリスクが発生した場合(「リスク」という卵がかえって、「雛(問題)」になった時)、どんな対策を取るか、具体的に記述します。例えば、あるシリコンバレーのソフトウェア開発会社では、技術的なキーマンが突然退職した場合、以下のような対策手順を決めていました。
(a) 退職の翌日から3日間、「The San Francisco Tribune」と「The San Francisco Chronicle」に求人広告を出す。給与は社内で規定した最高水準の30%増とする(注2)。
(b) 4日目に面接を実施し、即日1人を選ぶ。
(c) 5日目からエンジニアは出社し、開発を担当する。
注2これは、2001年頃の話ですが、葉書半分大ほどの求人広告を出したところ、3日間で80人ほどが応募してきたそうです。応募者の履歴書(resume:「レズメイ」と発音します。日本語だと「レジュメ」ですね)をチェックして10人に絞り込み、面接し、希望にほぼ合致したエンジニアを採用できたとのことです。
ちなみに、先入観を排し、中立性を保つため、履歴書には写真を貼りませんし、名前以外からは男女の別も分かりません。なお、履歴書には学歴詐称が非常に多く、また、「オハヨウゴザイマス」しか言えないのに、「Fluent in Japanese (日本語堪能)」と平気で書いてくるので(この誇張を「resume inflation」と言います)、人事部(Human Resource Department)も大変だそうです。
リスクが問題に変化しても、このように対策をキチンと記述しておけば、パニックになることはありません。ピンチに陥ってもパニックにならないことは、非常に重要です。想定外の出来事でパニックになると、プロジェクトが崩壊する可能性は十分にあります。
上記の対策にかかるコストをざっと計算します。上記の例では、新聞広告に3500ドル、新しいエンジニアの月収として、辞職したエンジニアの月収に1000ドルを上乗せすると仮定すると、開発完了に6カ月を要するならば、9500ドルが必要になります。
リスクが問題に変化する確率を計算します。これは、過去のデータから割り出します。過去10年間に300のプロジェクトが走り、そのうち、8のプロジェクトで技術的キーマンが突然辞職したと仮定すると、発生確率は2.7%となります。
リスクが問題に変化した時に必要な「対策費」に発生確率を乗じると、リスク対処のための予想金額となります。上記の場合、以下になります。
9500ドル × 2.7% = 253ドル
全ての「リスク対処の予想金額」を集計した金額が準備できていれば、リスク管理上は、一応、リスク一覧に記載した全リスクに対処でき、「熊とワルツが踊れる」と考えます。
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