10体のロボットがぶつかりそうでぶつからないのは、フィールドに備え付けられた2つの発信器から出されている超音波と赤外線によるワイヤレスセンサーネットワークによる。
ロボットの頭部には、5つの超音波マイクと4つの赤外線受信機が搭載されている。超音波と赤外線は、伝達速度がそれぞれ違う。各センサーの受信タイミングの差分を計測することで、ロボットの位置を正確に測定しているそうだ。これは、雷の光と音の間の秒数を数えることで、自分と雷の発生地点との距離が分かるのと同じ理屈だ。
把握した位置情報は、ボディにある通信モジュールで外部PCに送信される。通信には920MHz帯を利用する。Bluetoothなどは多く使われているので、あえてサブギガヘルツ帯を選択したという。PCは10体のロボットの位置情報を集約し、それぞれのロボットに対して姿勢や移動速度、移動方向の指示をリアルタイムに与えている。
ロボット同士が、安全距離を保ち余裕を持ってすれ違っていては、見る人はハラハラしない。ぶつかりそうになったときに、お互いをよける群制御を搭載していることがわかるように、ギリギリのすれ違いを実現したそうだ。
ロボットチア部の高度な群制御から「ロボット同士がコミュニケーションをすることで実現する近未来を感じてもらいたい」(吉川氏)という思いが根底にある。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やIoE(Internet of Everything:全てのインターネット)は、今、組み込み業界で注目のキーワードだ。同社が得意とする通信技術とセンシング技術を使い、10体のロボットがフォーメーションを繰り広げることで、技術の“見える化”を図っている。
例えば、ロボットチア部を自動車に置き換えて考えてみよう。
自動車がコミュニケーションを取り、お互いに相手の位置を認識できれば車間距離を適正に保ったり、見通しの悪い道で危険を予知し自律的な安全運転が可能になるだろう。
ロボットチア部に搭載されているワイヤレスセンサーネットワークシステムと群制御技術を拡大して解釈すると、エレクトロニクスで実現する未来の生活が想像できてくる。
「企画段階で予想した以上に難易度が高かった」とプロジェクトメンバーが口をそろえていうロボットチア部の開発は、社内の部署を横断してチームが結成された。プロジェクトが成功した要因は、「トップダウンの指令で開発をするのではなく、メンバー全員が自発的に課題をクリアしたから」と開発担当の守井知之氏が振り返る。
同社はこれまで自前主義をモットーとし、初代セイサク君からセイコちゃんは一貫して社内で開発してきた。今回は、外部と積極的に協業している。
群制御に関しては群行動アルゴリズムを用いた複数ロボットの移動制御を研究している京都大学の松野文俊教授の移動制御を適応させた。位置制御には、組み込みソフトウェアなどを手掛けるプロアシストの超音波を利用した位置計測システムをチア部のシステムに適合させた。ロボットデザインは外部デザイナーが、ロボット製造はベンチャー企業のヴイストンが担当している。
パートナー企業とのロボット開発は、市場環境が目まぐるしく変化し、開発スピードと高い提案力が求められるようになっている状況を鑑みた結果だという。
開発体制だけではなく開発思想も一新した。
セイサク君、セイコちゃんでは、ロボットに部品を搭載してできることを見せてきた。しかしながら、現在は「部品提供だけでは、クライアントが満足できなくなってきている」(吉川氏)という。
セットメーカーからも機能を要求されるようになっており、部品回りのハードウェアやソフトウェアも組み込んでモジュール化してクライアントに提供するように村田製作所はシフトしつつあるそうだ。
ロボットチア部は、システム設計、制御、アプリケーションも含めたソリューションを提供する、村田製作所の新たなビジネスモデルの体現だ。
村田製作所は、2014年10月7日〜11日の5日間、千葉・幕張メッセで開催される最先端ITとエレクトロニクスの総合展「CEATEC JAPAN 2014」の同社ブース内で、ロボットチア部を公開する予定になっている。
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