2つ目は、グローバルの主要ブランド企業からの委託生産を請け負える生産技術力だ。フォックスコンでは、「ワンストップショッピング」とし、治具と金型の設計製造から、機構系部品、筐体、基板実装、システム組み立てまで、一貫した製造を行うことができる。さらにこれらの工程の一部分だけでもサービスとして提供でき、顧客にとっては非常に使いやすい環境を作り出すことに成功した。
「従来は金型による射出成形が基本だったが、アップルのiPhoneが金属削り出しのデザインを採用したことで、切削加工でも大規模な設備を整えた。切削用工具や素材などの内製化も進んでいる」(中川氏)
これらで高い技術力を実現する裏付けとなったのが、日本製の高度な製造装置や生産技術だ。「フォックスコンには、台湾の経営力、中国の労働力、日本の生産設備で、一流顧客を囲い込むという明確な経営方針がある。実際に実装機や切削加工機、製造用ロボットなど日本製に頼っているものは多い。さらにこれらの最新の高級機種を積極的に導入することで技術力を高めている」(中川氏)。これらで確保した技術力により、グローバルブランドから受注を獲得することを可能にしたという。
そして、3つ目のポイントとなっているのが、時代の流れを的確に見極めた柔軟な経営力だという。「日本でバブルが崩壊した1990年前後には、台湾企業の技術力は高まっており、日本企業と比べてもかなり接近した存在になっていた。その技術力を背景に、中国での労働力の将来性にいち早く着目し、大規模工場を展開。コスト競争力という強みを加え、多くの一流顧客を獲得し、EMSというビジネスモデルを確立した。そのスピード感や柔軟な判断は、日本の多くの経営者がかなわなかったことだ」と中川氏は指摘する。
しかし、そんなフォックスコンも今多くの課題に直面しているという。中川氏が指摘する課題が次の6つだ。
フォックスコンでは、秘密保持を厳格に行うことで、1つの市場で何社もの委託を請け負うようにしている。これにより、あるブランドが市場で弱っても、その製品分野における生産量が大幅に減ることがないようにコントロールしている。しかし、現在その市場そのものが衰退するケースが増えてきている。
例えば、スマートフォン人気でアップル関連の受注では大きく伸ばしているものの、その影響でPCや携帯電話端末、ゲーム機、コンパクトデジタルカメラなどスマートフォンに押された市場が衰退傾向になり、結果としてフォックスコンの経営にも影響が出始めているという。
また中国の人権費が高騰し、新たな新興国が生まれてくる中、中国以外の生産拠点の確立というのも今後の課題とされている。新たな拠点設立には、中国進出の最大の利点であった中国語という利点が発揮できないためだ。
中川氏は「中国以外で成功するという保証はない。電子機器製造においてカバーできる範囲はほとんどカバーしており、今後の新規事業開拓という課題も大きい。成長はある意味で踊り場に入りつつあるといえるだろう」と指摘している。
ただ、中川氏は今も陣頭指揮を執る郭氏の存在を挙げ「今でも青年実業家のように元気に活動しており、彼ならなんとかするのではないかと感じている。郭氏は非常に日本びいきで日本企業を尊敬していると言ってはばからない。その気持ちはなかなか日本の多くの企業に伝わっていないのではないかと感じている。そんな郭氏と日本企業の橋渡しをして新たな関係を構築できたらよい」と強調していた。
日本のモノづくり環境は大きな変化を迎えている。多くのグローバル企業から製品組み立てを請け負うグローバル製造業から見たとき、日本のモノづくりの価値はどう映るのだろうか。フォックスコン顧問を務めるファインテック代表取締役社長の中川威雄氏に、日本のモノづくりの生きる道はどこにあるのかを語っていただく。
【プロフィール】
工学博士。東京大学名誉教授。ファインテック代表取締役社長。東京大学 生産技術研究所 教授、理化学研究所 研究基盤技術部長などを経て、2000年にファインテックを創業した。プレス加工や金型などの第一人者。東京大学教授を定年退職後、1999年からフォックスコンで技術顧問を務めている。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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